東京地方裁判所 平成9年(ワ)8422号 判決
原告 伯母治之
原告 児玉晃一
右両名訴訟代理人弁護士 別紙原告ら代理人目録記載のとおり<省略>
被告 国
右代表者法務大臣 高村正彦
右指定代理人 田邊哲夫 <外九名>
主文
一 被告は、原告伯母治之に対し、金一〇万円及びこれに対する平成八年五月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告伯母治之のその余の請求及び原告児玉晃一の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、原告伯母治之に生じた費用の一〇分の九と被告に生じた費用の一〇分の四を同原告の負担とし、原告児玉晃一に生じた費用と被告に生じた費用の一〇分の五を同原告の負担とし、原告伯母治之及び被告に生じたその余の費用を被告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
一 被告は、原告伯母治之に対し、一二三〇万一〇〇〇円及びこれに対する平成八年五月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は、原告児玉晃一に対し、六三二万円及びこれに対する平成八年六月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、詐欺容疑で警察署付属の留置場に勾留中の被疑者に接見しようとしたが、捜査担当検察官あるいは立会検察事務官に違法に接見を拒否され、また、右接見拒否処分について準抗告をしたところ、準抗告裁判所裁判官に違法に棄却されたとして、国に対し、国家賠償法一条一項に基づき、懲罰的慰謝料等の損害賠償金及び遅延損害金の支払を求める事案である。
一 争いのない事実等
1 当事者
(一) 原告伯母治之(以下「原告伯母」という。)は、東京弁護士会所属の弁護士であり、平成八年五月一九日(以下、年を記載しないときは、すべて平成八年を示す。)に被疑者藤田源三(以下「藤田」という。)の弁護人となった。
原告児玉晃一(以下「原告児玉」という。)は、東京弁護士会所属の弁護士であり、同月一四日に被疑者赤松聡(以下「赤松」という。)の弁護人となった。
(二) 東京地方検察庁検察官津野正文(以下「津野検察官」という。)、同室井和弘(以下「室井検察官」という。)、及び同馬場浩一(以下「馬場検察官」という。)は、後記詐欺被疑事件の捜査及び被疑者勾留等の職務を行い、同検察庁検察事務官石井庸訓(以下「石井事務官」という。)は、津野検察官の立会検察事務官としての職務を行った。
また、東京地方裁判所裁判官河邉義正(以下「河邉裁判官」という。)及び同三上英昭(以下「三上裁判官」という。)は、後記詐欺被疑事件の接見指定処分に対する準抗告決定を行った。
2 詐欺被疑事件の概要
(一) 藤田は、五月八日、詐欺容疑で逮捕され、同月一一日、警視庁本部留置場(以下「本部留置場」という。)に勾留され、併せて刑訴法八一条に基づく接見禁止決定を受けた。右勾留の期間は、同月一七日に同月二九日まで延長された。
なお、藤田は、同月二九日に詐欺被告事件で起訴され、その後、同種の詐欺被告事件二件で追起訴され、これら三事件は併合して審理された結果、一一月六日、東京地方裁判所において懲役三年の実刑判決が下され、右判決は確定した。
(二) 赤松は、五月一〇日、詐欺容疑で逮捕され、同月一三日、警視庁上野警察署留置場に勾留され、併せて刑訴法八一条に基づく接見禁止決定を受け、同月二九日に詐欺被告事件として起訴され、その後、六月一日、同種詐欺容疑で再逮捕され、同月四日、勾留され、併せて刑訴法八一条に基づく接見禁止決定を受けた。
なお、赤松は、同月二一日、詐欺被告事件で追起訴され、その後同種詐欺被告事件で追起訴され、これら三事件は併合して審理された結果、一〇月三〇日、東京地方裁判所において懲役二年・執行猶予三年の判決が下され、右判決は確定した。
(三) 藤田及び赤松に対する各詐欺被疑事件は、株式会社アルファネットワーク(以下「アルファネットワーク」という。)の会社ぐるみの資格商法詐欺事件(以下「本件資格商法詐欺事件」という。)の多数の被害者の中から一人ずつを取り上げ、それぞれ別個の詐欺事件として取り扱われているが、その共謀関係、仕組み等はいずれも共通しており、同種事件といえるものであった。藤田はアルファネットワークの取締役統括部長であり、赤松はその営業員である。
藤田らは、警視庁生活安全部生活経済課によってアルファネットワークの事務所等が捜索を受けたので、名古屋弁護士会所属弁護士藤井成俊(以下「藤井弁護士」という。)に善後策を相談するなどし、逮捕された後には同弁護士を弁護人に選任した。藤井弁護士は、知人であった東京弁護士会所属弁護士濱口善紀(以下「濱口弁護士」という。)に対し、藤田らの弁護人となってもらえる在京の弁護士の紹介を依頼し、濱口弁護士は、右依頼により、原告伯母及び原告児玉に藤田及び赤松の弁護人となるよう依頼した。
その後、藤田及び赤松の共犯者又は関連被疑者として合計一七名が逮捕され、そのうち一六名が起訴され、いずれも有罪判決が下された。
3 原告伯母の接見申出とその経過
(一) 本件接見申出(1) の経過
(1) 原告伯母は、五月一九日、本部留置場において、藤田と一回目の接見をし、藤田の弁護人に選任された。その際、留置係の警察官から、藤田の詐欺被疑事件については通知事件となっているので、担当検察官に接見が可能であるか否かを確認した上、接見してほしい旨の申出を受けた。そのため、原告伯母は、接見をする際には、担当検察官である室井検察官に電話を入れ、指定を受けてから接見することとし、その後、二〇日、二一日、二二日に接見した。
(2) 原告伯母は、同月二三日午後四時ころ、室井検察官に対し、藤田と同日午後四時から午後五時までの間、翌二四日午後四時から午後五時までの間、翌々日の二五日午後〇時から午後一時までの間に、いずれも室井検察官の指定する時間内に接見したい旨電話で申し出た(以下、この申出を「本件接見申出(1) 」という。)ところ、室井検察官は、二三日の接見申出については申出の時間帯で三〇分間の接見を指定し、二四日以降の接見申出については二四日に回答する旨答えた。原告伯母は、二三日午後四時四〇分ころから午後五時一〇分ころまでの間、藤田と接見した。
室井検察官は、二四日午前九時四〇分ころ、原告伯母の法律事務所に電話し、同事務所事務員に取調べのため本日は藤田との接見はできない旨回答した(甲一四の2)。そこで、原告伯母は、同日午前一一時四五分ころ、室井検察官に電話し、再度接見を申し出たが、室井検察官は、取調べの予定があるという理由で、いずれの接見申出についても制限した(以下、これを「本件接見指定(1) 」という。)。
(3) 原告伯母は、右接見指定処分について、二四日午後一時三五分ころ、東京地方裁判所に対し、準抗告の申立てを行った。
しかし、同裁判所の河邉裁判官は、同日、「申立人の申出の二日間は集中的に被疑者に対する取調べを行うことが予定されていることが認められる上、申立人の被疑者との接見は被疑者に対する勾留期間延長の裁判がなされた以降のみをみても、四日間にわたり連日行われていることも優に認められるから、捜査のため必要があるとして申立人申出の時間帯における接見を拒否した検察官の処分は、被疑者の防御権を不当に制限するものではなく、相当というべきである。」との理由で右申立てを棄却する決定(以下「本件決定(1) 」という。)をした。
これに対し、原告伯母は、同日午後八時三〇分ころ、最高裁判所に対し、特別抗告の申立てを行った。しかし、同裁判所は、同月二八日、右特別抗告は法律上の利益を欠き不適法であるとして右申立てを棄却する決定をした。その結果、原告伯母は、二四日及び二五日に藤田と接見できなかった。
(4) 右二四日における藤田に対する取調べは、午前一〇時二二分ころから午前一一時二七分ころまで、午後一時五二分ころから午後四時四六分ころまで、午後六時五一分ころから午後一〇時〇七分ころまで行われた。また、翌二五日における藤田に対する取調べは、午前一〇時二〇分ころから午前一一時二一分ころまで、午後一時三〇分ころから午後五時二二分ころまで、午後六時五八分ころから午後一〇時一八分ころまで行われた。このうち、二四日の午後六時五一分ころから午後九時ころまで、翌二五日の午後六時五八分から午後九時ころまでは室井検察官が取調べを行った。
(二) 本件接見申出(2) の経過
(1) 原告伯母は、五月二五日午後一時三〇分ころ、室井検察官に対し、翌二六日午後一時から午後二時までの間に、室井検察官が指定する時間内に接見をしたい旨電話により申し出た(以下、この申出を「本件接見申出(2) 」という。)ところ、室井検察官は、取調べの予定があるという理由で同日の接見を制限し(以下、これを「本件接見指定(2) 」という。)、代替日時として翌々日の二七日午前一一時から午後〇時の間の三〇分間と指定した。
(2) 原告伯母は、同月二五日午後二時五〇分ころ、右接見指定処分について、東京地方裁判所に対し、準抗告の申立てを行った。
しかし、同裁判所の三上裁判官は、同日、「同月二七日午前一一時から午後〇時の間において三〇分間接見させる旨の指定を行ったこと、申立人が申し立てた五月二六日には同検察官による被疑者の取調べが予定されている上、申立人の被疑者との接見は、勾留延長の裁判がなされた以降のみをみても四日間にわたり連日行われていること等の事実が認められ、これによれば、捜査のため必要があるとして申立人申出の時間帯における接見を拒否した同検察官の処分は被疑者等の防御権を不当に制限するものではない。」として、右準抗告の申立てを棄却する決定(以下「本件決定(2) 」という。)をした。その結果、原告伯母は、二六日に藤田と接見できなかった。
(3) 同月二六日における藤田に対する取調べは、午後一時五〇分ころから午後五時〇五分ころまで、午後六時五五分ころから午後八時五六分ころまで行われ、このうち午後一時五〇分ころから午後五時〇五分ころまでは室井検察官が取調べを行った。
(4) 原告伯母は、同月二七日午前一一時ころから午前一一時三〇分ころまで藤田と接見した。その後、同日午後三時三〇分から勾留理由開示手続が行われた。
(三) 本件接見申出(3) の経過
(1) 原告伯母は、五月二八日午前一〇時四〇分ころ、室井検察官に対し、本日時刻を問わず、室井検察官が指定する時間に藤田と接見をしたい旨電話により申し出た(以下、この申出を「本件接見申出(3) 」という。)ところ、室井検察官は、当日の接見を制限し(以下、これを「本件接見指定(3) 」という。)、代替日時を翌二九日の午後四時から午後五時の間の三〇分間と指定した。
(2) 原告伯母は、室井検察官の右接見指定処分について、同月二八日午後一時三〇分ころ、東京地方裁判所に対し、準抗告の申立てを行ったところ、同日午後四時四五分ころ、同裁判所の裁判官山内昭善(以下「山内裁判官」という。)から原告伯母に電話があり、翌日の早い時間に接見できるように室井検察官に強く申し入れるので納得してほしいとの申出があり、原告伯母はこれを了承した。すると、まもなく山内裁判官より電話があり、翌二九日午後〇時から午後一時までの間の三〇分間の接見を認める旨の了解を取り付けたとの連絡を受けた。そこで、原告伯母は、右二九日、右準抗告申立てを取り下げた。原告伯母は、二八日には藤田と接見できなかった。
(3) なお、同月二八日における藤田に対する取調べは、午前一〇時一八分ころから午前一一時二六分ころまで、午後二時〇一分ころから午後四時五四分ころまで、午後七時〇二分ころから午後九時四二分ころまで行われた。
4 原告児玉の接見申出とその経過
(一) 本件接見申出(4) の経過
原告児玉は、五月一四日に赤松と一回目の接見をして弁護人に選任され、以後、一五日、一六日、一七日、二〇日、二二日、二四日、二六日、二八日に赤松と接見したが、いずれも接見指定を受けなかった。
赤松は、六月一日、別の被害者に対する詐欺容疑で再逮捕され、同月四日、勾留され、併せて刑訴法八一条に基づく接見禁止決定を受けた。
原告児玉は、同月五日午前一一時ころ、上野警察署に到着し、赤松との接見を申し出た(以下、この申出を「本件接見申出(4) 」という。)。右詐欺被疑事件に対しては、捜査の必要があるときは接見指定をすることがある旨の通知書が馬場検察官から上野警察署長宛に送付されていたので、留置係の警察官が担当検察官である馬場検察官に連絡をとったところ、馬場検察官は、捜査のため必要があるとして、接見時間を午前一一時二五分から二〇分間に制限した(以下、これを「本件接見指定(4) 」という。)。
原告児玉は、同日午前一一時三五分ころから午前一一時五五分ころまで接見したが、約三五分間接見開始が遅延した。
(二) 本件接見申出(5) の経過
原告児玉は、六月七日午後七時ころ、電話で赤松が上野警察署留置場に在監していることを確認した上、午後七時三〇分ころ、同警察署に到着し、赤松との接見を申し出た(以下、この申出を「本件接見申出(5) 」という。)ところ、留置係の警察官から連絡を受けた津野検察官の立会検察事務官である石井事務官は、右警察官に対し、原告児玉に二〇分間接見させるように指示した(以下、これを「本件接見指定(5) 」という。)。原告児玉は、約五分後、留置係の警察官から、津野検察官によって二〇分間の接見指定が口頭でされた旨告げられたので、津野検察官に連絡をとるように要請した。
午後七時四〇分ころ、津野検察官は既に帰宅したとのことで、石井事務官から電話で事情の説明を受けることになり、原告児玉が石井事務官に具体的にどのような捜査の必要があるのか説明を求めたところ、同事務官は、津野検察官と連絡をとって、至急連絡をする旨回答したので、原告児玉は一旦電話を切り、連絡を待つこととした。
その後、数分して、原告児玉は留置係の警察官から、結局接見指定をしないことになった旨伝えられ、制限なしで赤松と接見することができたが、約三〇分間接見開始が遅延した。
(三) 本件接見申出(6) の経過
原告児玉は、六月一一日午後七時〇五分ころ、上野警察署留置係の警察官に対し、赤松が留置場に在監しており、取調べ等が行われていないことを電話で確認した上、午後七時三五分ころ、同警察署において赤松との接見を申し出た(以下、この申出を「本件接見申出(6) 」という。なお、本件接見申出(1) ないし(6) を合わせて「本件各接見申出」という。)ところ、馬場検察官は、原告児玉の右電話の直後に留置係の警察官から連絡を受けて、接見時間を二〇分間とする旨の指定をした(以下、この指定を「本件接見指定(6) 」という。なお、本件接見指定(1) ないし(6) を合わせて「本件各接見指定」という。)。
そこで、原告児玉は、馬場検察官に対し、接見を制限すべき捜査の必要性について説明を求めたところ、馬場検察官は、留置係の警察官に就寝時刻等の確認をし、右接見指定を撤回した。
その結果、原告児玉は、午後七時五五分ころから赤松と接見したが、約二〇分間接見開始が遅延した。
二 原告らの主張
1 刑訴法三九条三項本文の規定の無効
(一) 憲法三四条前段違反
(1) 接見交通権の憲法上の地位
接見交通権は、身体を拘束された被疑者が弁護人の援助を受けるための刑事手続上最も重要な基本的権利であり、それは憲法上明記された弁護人依頼権の実質的内容にほかならず、憲法上の権利そのものである。
(2) 国家の刑罰権又は捜査権と接見交通権との関係
国家の刑罰権又は捜査権が、憲法上の権利でないことは、憲法三一条以下の諸規定から明らかである。
憲法三一条以下は、国家権力の存在を前提とした上で、原則として人の行動の自由をある特定の場合に例外的に侵害・剥奪することの条件を設定したものである。その例外を正当化するための条件が、憲法三一条以下に定められた手続的要件である。このような手続的要件をはめ込むことによって憲法上の例外が定められている以上、例外の例外はあり得ない。国家権力はこの手続的要件を踏まえなければ市民の自由へは一歩も近づけないし、例外としての手続的要件を欠いた国家権力による侵害を市民は断固として排除できるのである。この点が、自由権規定と異なる点であり、憲法三一条以下に特記される例外(手続的要件)が公共の福祉あるいは内在的制約のいずれとも等置されてはならない所以である。
したがって、公共の福祉の名の下に接見交通権を制限することはできないのである。
(3) 憲法三四条前段違反
身体を拘束された被疑者の弁護人の役割は、黙秘権をはじめとする被疑者の諸権利の保障を実質的に確保するとともに、捜査官の違法行為を防止し、被疑者の防御権に実体を与えることであり、弁護人依頼権の趣旨はそこにある。
しかし、一方当事者である検察官、検察事務官又は司法警察職員(以下「捜査機関」という。)に指定権を与え、ただし書に「不当に」の一語を不用意に挿入した刑訴法三九条三項の規定は、憲法の趣旨に反するものであることは明らかである。一方当事者である捜査機関に、「捜査のため必要」か否かの第一次的な判断権を与えたのでは、この弁護人依頼権の趣旨を没却してしまうことは、一般的指定制度下における接見制限の実態をみれば明らかである。接見の必要性と捜査の必要性が拮抗する状況下において、その一方当事者である捜査機関に、他方当事者の権利を直接的に制限する権限を付与することは明らかに公平でない。
したがって、刑訴法三九条三項本文が、捜査機関に接見指定権を付与していること自体が憲法三四条前段に違反する。
(二) 国際人権規約による保障
(1) 国際人権B規約による接見交通権の保障
市民的及び政治的権利に関する国際規約(昭和五四年条約第七号。以下「国際人権B規約」という。)一四条三項(b)は、「すべての者」の「刑事上の罪の決定」について、「防御の準備のために十分な時間及び便益を与えられ並びに自ら選任する弁護人と連絡すること」を権利として保障している。
同規約二八条に基づいて、同規約の遵守の状況を監視するために設置された機関である規約人権委員会は、その一般的意見一三(二一)において「一四条三項(b)は、弁護人に対し、その連絡の秘密を十分尊重するという条件で、被疑者・被告人と連絡することを要求する。弁護士はいかなる方面からも、いかなる制限、影響、圧力又は不当な干渉も受けることなく、その確立した専門的水準及び判断によって、その依頼者に助言しかつ依頼者を代理することができるべきである。」との解釈基準を示した。
また、「あらゆる形態の拘禁・収監下にあるすべての人の保護のための原則(一九八八年一二月九日国際連合総会第四三回会期決議四三/一七三。以下「被拘禁者保護原則」という。)」は、国際人権B規約の解釈基準としても機能することを前提としているが、「抑留又は拘禁された者が、遅滞なく、また検閲されることなく完全に秘密を保障されて自己の弁護士の訪問を受け、弁護士と相談又は通信する権利は、停止されたり制限されたりしないものとする。但し、法律又は法に従った規則に定められ、かつ司法もしくはその他の機関により安全と秩序を維持するために不可欠であると判断された例外的な場合を除くものとする。」と定めた(同原則一八の3)。ここでいう、「司法もしくはその他の機関」とは、「その地位及び在任資格によって、権限、公平性及び独立性について最も強い保護が与えられている、裁判官その他の官憲」を指す(同原則、用語(f))。したがって、現に被疑者を取り調べる主体たる捜査機関を含まないことは明白であり、接見制限の主体を捜査機関とする法制は、国際人権B規約と相いれない。また、同原則にいう「安全と秩序を維持するために不可欠であると判断された例外的な場合」は、「取調べ中」や「取調べ予定」を理由とする制限を許容するものではない。
(2) 国際人権B規約一四条三項(b)の国内的効力
国際人権B規約一四条三項(b)は、自動執行力を有する条項であり、国内において何ら立法措置を採ることなく適用され、しかも法形式上国内法に優位する。
(3) 刑訴法三九条三項本文の国際人権B規約一四条三項(b)違反
刑訴法三九条三項本文は、次の理由から国際人権B規約一四条三項(b)に適応せず、国際的な被拘禁者処遇の潮流を踏まえた現時の国内法秩序に反するものであり、無効である。
第一に、被疑者、被告人の「刑事上の罪の決定」の一方当事者である捜査機関が、接見交通権を制限する主体とされていることが挙げられる。捜査機関を接見制限の主体とする法制は、比較法的にみても際立って異色である。被拘禁者保護原則にいうところの「司法機関もしくはその他の機関」が、捜査機関とは区別される独立かつ公平な機関を指すと解されることからしても、刑訴法三九条三項本文は国際人権B規約一四条三項(b)に違反する。
第二に、「捜査の必要」を理由とした接見制限が認められていることが挙げられる。取調べが現に進行中であることや、将来取調べが予定されていることを理由に、弁護人と被疑者との接見を拒否し、遅延させ、制限することや接見交通権の保障の原則と例外を逆転させて運用することが、規約人権委員会の一般的意見や被拘禁者保護原則上の解釈基準に照らし、国際人権B規約一四条三項(b)に違反することは明らかである。
(三) 結論
以上のように、刑訴法三九条三項本文は、憲法三四条前段及び国際人権B規約一四条三項(b)に違反し、無効である。
2 接見指定要件
捜査機関が弁護人又は弁護人を選任できる者の依頼により弁護人になろうとする者(以下「弁護人等」という。)の接見又は書類若しくは物の授受(以下「接見等」という。)を制限するには、以下の各要件のすべてを充たすことが必要であり、右要件が一つでも欠ければその接見指定は違法である。
(一) 実体的要件
(1) 現に被疑者を取調べ中であるとか、実況見分、検証、引当り捜査等に立ち会わせている場合でなければならない。
なお、被疑者の取調べ中のほか、被告主張の罪証隠滅の防止を含む捜査の全般の観点から捜査に支障がないか否かをもって捜査のため必要があるかどうかの判断基準とすることはできない。
(2) 「捜査の中断による支障が顕著な場合」でなければならない。
右(1) の要件に形式的には該当する場合であっても、そのことから直ちに、「捜査の中断による支障が顕著な場合」との要件を充たすことにはならず、右(1) の要件と併せて、右(2) の要件をも充たすことが必要である。
(3) 弁護人等との接見等を制限しても、被疑者の防御権を不当に侵害しない場合でなければならない。
右(1) 及び(2) の各要件は、捜査機関の事情に基づくものであるが、このような要件を充たす場合であっても、弁護人等との接見等を制限することによって、被疑者の防御権を不当に侵害する結果となる場合には、接見等を制限することができない。
(二) 指定内容の要件
接見指定内容は、弁護人等ができるだけ速やかに接見等を開始することができ、かつ、その目的に応じた合理的な範囲内の時間を確保することができるものでなければならない。
指定要件が存在したとしても、指定内容の要件を充たしていないとすれば、その接見指定は違法である。
(三) 手続的要件(捜査機関の義務)
実体的要件及び指定内容の要件の存否とは別に、捜査機関は、以下の義務を負っているのであり、右義務に違反してされた接見指定処分は、手続的要件を欠くものとして、それ自体で違法である。
(1) 取調べ状況等の確認及び指定要件の検討義務
弁護人等から接見等の申出を受けた捜査機関は、直ちに取調べ状況等の確認をする義務を負っており、その上で、接見指定要件が存在するか否かを十分に検討する義務を負っている。右義務を尽くすことなく、捜査機関が接見指定をすれば、右接見指定はそれ自体違法である。
(2) 弁護人等との協議・調整義務
捜査機関には、弁護人等と協議してできる限り速やかな接見のための日時等を指定し、被疑者が防御のため弁護人等と打ち合わせることのできるような措置を採るべき義務があり、右協議・調整義務を果たすことなく、一方的に接見指定をすれば、右接見指定はそれ自体で違法である。
(3) 代替日時の指定及び告知義務
刑訴法三九条一項が原則で同条三項が例外である以上、三項による接見指定がされるまでは接見は自由でなければならない。捜査機関は、代替日時を指定することによってしか、弁護人等が申し出た日時における接見を拒否することができない。代替日時の指定なくして、単に弁護人等からの接見申出の拒否だけをすることはそれ自体で違法である。
(四) 被告は、原告らが接見を希望した時間には、間近かつ確実な被疑者の取調べの予定があり、原告らの申出どおりの接見を認めたのでは、取調べを中断したり、取調べの開始時刻を遅延させたりせざるを得ないことから、捜査の中断による支障が顕著な場合に該当すると主張する。
しかし、取調べの予定が間近かどうかは接見申出時を基準として判断すべきであり、将来においていかに確実な取調べ等の予定があっても、それが接見申出時に間近いものでなければ、捜査機関は接見指定をし得ない。したがって、弁護人等が接見申出時に即時の接見等を要求するのではなく、将来の接見等を希望する場合には、捜査機関は原則として接見指定をし得ず、弁護人等が希望する接見申出を制限することはできないと解すべきである。
また、現に取調べ中ないし取調べ予定があるというだけでは「捜査の中断による支障が顕著」な場合には該当しない。たとえ取調べの予定等が存在したとしても、その開始時刻を遅らせて接見を認めることにより、具体的に捜査に支障が生じるのでなけれは、「捜査の中断による支障が顕著」な場合には該当しないのである。
(五) 被告は、指定要件の存在を基礎づける要素の一つとして、「弁護人等の特異な弁護活動等から、弁護人等との接見を認めると、共犯者等と遮断した取調べが困難となる場合」という基準を設定した上で、藤井弁護士らの弁護活動に特異な弁護活動があったと主張する。
しかし、被告が主張する右基準自体接見指定要件にはならない上、藤井弁護士らの弁護活動に被告が主張するような特異な弁護活動は一切存在しなかった。
3 本件各接見指定の違法性
(一) 本件接見指定(1) の違法性
(1) 取調べ予定が間近で確実ではないこと
本件接見申出(1) の接見希望日(五月二四日及び二五日)は、接見申出時の翌日若しくは翌々日であるから、たとえ接見希望日時において取調べの予定があったとしても、接見申出時から間近ではない上、右接見申出時において、翌日以後の取調べの予定が確定していなかったから、取調べ予定が確実でもなく、本件接見指定(1) は違法である。
(2) 捜査の中断による支障が顕著な場合ではないこと
室井検察官が接見を制限した二四日及び二五日には、藤田に対する取調べが終日にわたって行われたわけではなく、原告伯母が接見をする時間は十分にあったから、本件接見指定(1) は、捜査の中断による支障が顕著な場合に当たらないのにされたもので、違法である。
(3) 指定要件の検討義務、協議・調整義務違反
室井検察官は、本件接見申出(1) を拒絶するには「捜査の中断による支障が顕著な場合」に該当するか否かについて十分な検討を加えるべき義務、及び、取調べ予定時間と接見時間との調整を行うべき義務があるのにこれを怠り、原告伯母の接見との調整の努力を一切することなく、単に取調べの予定があることのみを理由として右申出を制限したから、本件接見指定(1) は違法である。
(4) 代替日時指定告知義務違反
弁護人等の接見を制限するには、改めて接見日時を指定してこれを弁護人等に告知すべき法的義務があるにもかかわらず、室井検察官は、右義務に反し何ら代替日時の指定を行うことなく接見を制限したから、本件接見指定(1) は違法である。
(二) 本件接見指定(2) の違法性
(1) 取調べ予定が間近で確実ではないこと
本件接見申出(2) の接見希望日(五月二六日)は、接見申出時の翌日であるから、接見申出時から間近ではない上、二六日の午前中は捜査会議のために実際には取調べは行われなかったから、取調べ予定は確実でない。よって、本件接見指定(2) は違法である。
(2) 捜査の中断による支障が顕著な場合ではないこと
接見希望日である二六日には、藤田に対する取調べが終日にわたって行われたわけではなく、原告伯母が接見をする時間は十分にあったから、本件接見指定(2) は、接見指定要件である「捜査の中断による支障が顕著な場合」に該当せず、違法である。
(3) 被疑者の防御権を不当に侵害していること
接見指定は被疑者の防御権を不当に制限することがあってはならないところ、二六日は勾留理由開示手続の前日に当たり、本件接見指定(2) により、藤田と原告伯母は右勾留理由開示手続の打合せを十分行うことができず、藤田の防御権は不当に制限されたから、右指定は違法である。
(4) 指定要件の検討義務、協議・調整義務違反
室井検察官は、本件接見申出(2) に対し、「捜査の中断による支障が顕著な場合」に該当するか否かの十分な検討を加える義務、及び、取調べ予定時間と接見時間との調整を行うべき義務があるのにこれを怠り、単に取調べ予定があることのみを理由として右接見申出を制限したから、本件接見指定(2) は違法である。
(三) 本件接見指定(3) の違法性
(1) 捜査の中断による支障が顕著な場合ではないこと
本件接見申出(3) の接見希望日(五月二八日)には、藤田に対する取調べが終日にわたって行われたわけではなく、原告伯母が接見をする時間は十分にあったから、本件接見指定(3) は、接見指定要件である「捜査の中断による支障が顕著な場合」に該当せず、違法である。
(2) 指定内容が弁護人等ができるだけ速やかに接見を開始することができるものではないこと
室井検察官は、本件接見申出(3) に対して、翌二九日午後四時から午後五時までの間の三〇分間と指定したが、右指定は弁護人等ができるだけ速やかに接見等を開始することができるものではなかったから、本件接見指定(3) は違法である。
(3) 取調べ状況等の確認及び指定要件の検討義務違反
室井検察官は、本件接見申出(3) に対し、取調べ状況等を確認すべき義務や接見指定要件を検討すべき義務があるのにこれを怠り、接見申出時における取調べやそれに間近い時における取調べ等の予定を何ら確認せず、一方的に翌二九日の午後四時から午後五時までの間の三〇分間と指定したから、本件接見指定(3) は違法である。
(4) 弁護人との協議・調整義務違反
室井検察官は、原告伯母と代替日時の協議・調整を行うべき義務があるのにこれを怠り、何ら調整・確認等を行うことなく、一方的に翌二九日の午後四時から午後五時までの間の三〇分間と指定したから、本件接見指定(3) は違法である。
(四) 本件接見指定(4) の違法性
(1) 取調べ予定が間近で確実ではないこと
本件接見申出(4) の申出時点で赤松に対する取調べは行われておらず、また当日は一切取調べが行われなかったから、本件接見申出(4) の申出時点で取調べの予定も存在しなかったし、仮に存在しても右予定は間近でも確実でもなかった。よって、本件接見指定(4) は違法である。
(2) 捜査の中断による支障が顕著な場合ではないこと
本件接見申出(4) の申出時点で赤松に対する取調べは行われておらず、また当日は一切取調べが行われなかったから、原告児玉の申出どおりの接見が行われても「捜査の中断による支障が顕著な場合」ではなかった。よって、本件接見指定(4) は違法である。
(3) 接見時間の不十分性
原告児玉は、馬場検察官から接見時間を二〇分間と指定されたが、これでは被疑者の防御権を侵害する。
(4) 指定要件の確認・検討義務違反
馬場検察官は、本件接見申出(4) に対し、「捜査の中断による支障が顕著な場合」に該当するか否かを確認・検討すべき義務があるのにこれを怠ったから、本件接見指定(4) は違法である。
(5) 接見開始の遅延
原告児玉は、馬場検察官によって即時の接見を妨げられ、接見を申し出てから接見できるまで約三五分間待機させられたところ、被告は、右時間は合理的な範囲内の時間である旨主張する。しかし、被告の右主張は、接見指定要件が存在し、かつ検察官に課された手続義務すべてを果たしていることを前提とするものであるが、原告児玉は、接見指定要件が存在しないなどの様々な理由により違法な接見指定をされた結果、三五分間待機させられたことを問題としているのであるから、被告の右主張はその前提を欠き失当である。
(五) 本件接見指定(5) の違法性
(1) 津野検察官による接見指定(主位的主張)
<1> 接見指定の実体的要件の不存在
津野検察官がした接見指定は、申出時点では、赤松に対する取調べは行われておらず、またその予定もなかったのであるから、接見指定の実体的要件を欠き、違法である。
<2> 取調べ状況等の確認及び指定要件の検討義務違反
津野検察官は、本件接見申出(5) に対し、取調べ状況等の確認及び「捜査の中断による支障が顕著な場合」に該当するか否かの検討を行う義務があり、原告児玉が赤松の勾留場所である上野警察署に赴く約三〇分前に同署に連絡しており、右連絡時以降の当日の取調べ予定の有無につき調査する時間的余裕が十分あったにもかかわらず、何ら確認、検討を行うことなく、接見時間等の指定を行い、原告児玉の接見を制限したから、右接見指定は違法である。
(2) 石井事務官による接見指定(予備的主張)
石井事務官は、本件接見申出(5) に関して、留置係の警察官に対し、津野検察官の指示に基づくものでないにもかかわらず、津野検察官の指示として、原告児玉を赤松に二〇分間接見させる旨述べ、原告児玉と赤松との接見を二〇分間に制限する旨の接見指定処分をした。石井事務官の右行為は、前記のとおり、接見指定の要件がないにもかかわらずされたもので、違法である。
また、石井事務官は、津野検察官の指示がないにもかかわらず、津野検察官の指示があったかのように装って、原告児玉の接見を制限する行為を行ったのであり、そのことだけを取り上げても違法である。
なお、被告は、石井事務官には接見指定権限がゆだねられていなかった旨主張する。しかし、刑訴法三九条三項は、接見指定の主体につき、「検察官、検察事務官又は司法警察職員」と明確に定めており、法律上、石井事務官が独自の接見指定権を有することは、異論を挟む余地がない。捜査の主宰者か否かは、もっぱら内部制限にすぎない。
(六) 本件接見指定(6) の違法性
(1) 接見指定の実体的要件の不存在
本件接見指定(6) は、申出時点では、赤松に対する取調べは行われておらず、またその予定もなかったから、接見指定の実体要件を欠き、違法である。
(2) 取調べ状況等の確認及び指定要件の検討義務違反
馬場検察官は、本件接見申出(6) に対し、取調べ状況等の確認及び指定要件の検討をすべき義務があり、原告児玉は、当日上野警察署に赴く約三〇分前に同署に連絡しており、右連絡時以降の当日の取調べ予定の有無につき調査する時間的余裕が十分あったにもかかわらず、これを怠り、何ら確認、検討を行うことなく、接見時間等の指定を行ったから、本件接見指定(6) は違法である。
(3) 接見開始の遅延
原告児玉は、馬場検察官によって即時の接見を妨げられ、接見を申し出てから接見できるまで約二〇分間待機させられたところ、被告は、右時間は合理的な範囲内の時間である旨主張する。しかし、被告の右主張は、接見指定要件が存在し、かつ検察官に課された手続義務すべてを果たしていることを前提とするものであるが、原告児玉は、接見指定要件が存在しないなどの様々な理由により違法な接見指定がされた結果、二〇分間待機させられたことを問題としているのであるから、被告の右主張はその前提を欠き失当である。
4 準抗告決定の違法性
(一) 準抗告決定と国家賠償法上の違法の判断基準
準抗告手続は、弁護人等の接見交通権に対する検察官の不当な侵害行為の唯一の是正手段であって、その救済は最大限優先されなくてはならない。準抗告決定に対しては、特別抗告ができる建前とはなっているが、接見指定処分の取消しに関する特別抗告審の裁判がされる時点では、日時の経過により法律上の利益を失ったとして不適法却下される場合がほとんどであり、事実上準抗告が唯一の救済手段である。
したがって、準抗告審における裁判官の違法行為を救済する手続は、国家賠償訴訟によるほかはないから、接見妨害に対する準抗告手続における裁判官の裁判においては、根拠法規違反がそのまま国家賠償法(以下「国賠法」という。)上の違法に該当すると解すべきであって、争訟の裁判に関する最高裁判所判例の法理は妥当しない。
(二) 「特別の事情」
仮に、準抗告規定の国賠法上の違法について、当該裁判官が違法又は不当な目的をもって裁判をしたなど裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情があることを必要とする争訟の裁判に関する最高裁判所判例の法理に従ったとしても、右判旨は裁判官が主観的に悪意を有している場合はもちろんのこと、当該裁判官のした裁判が客観的に「ある限度」を越えて違法又は不当である場合には、国賠法上の違法が認められるという趣旨に解されるべきである。
そして、右の「ある限度」を越えた場合とは、裁判官が事実認定や法令の解釈・適用に当たって、経験法則・採証法則・論理法則等を著しく逸脱し、裁判官に要求される良識を疑われるような非常識な過誤を犯したことが当該裁判の審理段階において明白な程度にまで達していればもちろんのこと、右程度にまで至らないまでも、著しく経験則を逸脱し、通常の裁判官が合理的に判断すれば、当時の証拠、状況の下では到底そのような事実認定をしなかったであろうと考えられるような重大な過失がある場合をも含むものである。すなわち、事実認定の資料として用いられた全資料や判例、学説の傾向等を踏まえ、判断の相対性を前提としても、「最大限許容される範囲」というものが存在するのであり、この範囲を越えた非常識なあるいは異常な事実認定と法律解釈が行われた場合には、上訴によって是正されるだけでは足りない程度の裁判がされたと認められなければならない。
右のような場合には、当該裁判行為は、上訴によってその瑕疵が是正されるか否かにかかわらず、国賠法上違法である。
(三) 本件決定(1) の違法性
河邊裁判官は、本件接見指定(1) に対する準抗告手続において、室井検察官が何らの代替日時の指定を行うことなく、本件接見申出(1) を一切拒否した事実が明らかであり、本件接見指定(1) の違法が明白であるにもかかわらずこれを看過し、単に本件接見申出(1) の対象である五月二四日及び二五日の二日間に取調べが予定されていること、接見申出以前四日間に連日して接見が行われていることを理由に右準抗告申立てを棄却する決定(本件決定(1) )をした。
最高裁判所判例によって、例外的に接見を制限する場合であっても、捜査機関には代替日時の指定を行うことが義務付けられていることが明確に確認されており、裁判官としては右最高裁判所判例の趣旨は当然認識していなければならないものである。右準抗告申立ては、室井検察官が代替日時を指定することなく接見を拒否したことが明白な事案であり、認容されるべきであった。それにもかかわらず、同裁判官は、「捜査の中断による支障が顕著な場合」に該当するか否かの判断に全く関係しない接見申出以前の弁護人の接見回数等を理由に本件準抗告申立てを棄却したのである。
同裁判官の右判断は著しく経験則を逸脱したものであり、仮に通常の裁判官が当時の本件に関する資料状況の下で合理的に判断するならば、同裁判官のような裁判をせず、本件接見指定(1) が違法であると判断し、準抗告申立てを認容していた事案であり、同裁判官の事実認定、法律解釈には重大な過失が認められ、その付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものであり、もはや上訴による是正だけでは足らず、国賠法上も違法である。
(四) 本件決定(2) の違法性
三上裁判官は、本件接見指定(2) に対する準抗告手続において、室井検察官が「捜査の中断による支障が顕著な場合」に当たるか否か十分な検討をしていないことが明らかであるにもかかわらずこれを看過し、室井検察官が接見時間確保のための調整を行ったか、調整が可能であるかにつき何ら審査することなく、単に、代替日時の指定がされていること、接見希望日には取調べの予定があること、接見申出以前に四日間連日接見が行われていることを理由に、本件接見指定(2) により三日間連続で接見ができないという事情に目を向けることなく、右申立てを棄却する決定(本件決定(2) )をした。
最高裁判所判例によれば、取調べ予定を確認し、かつ取調べ時間の調整等により「捜査の中断による支障が顕著な場合」に該当するか否かを十分検討することが要請されていること、及び、本件において同検察官が右の点について十分な検討を欠いていることは明白であり、通常の裁判官が当時の資料状況の下で合理的に判断するならば、本件接見指定(2) が違法であると判断し、右準抗告の申立てを認容していたと思われるにもかかわらず、前記のとおり同裁判官はこれを看過し、右申立てを棄却したものであり、同裁判官の右裁判行為は、その付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使し、もって捜査機関による違法な接見妨害行為の是正という準抗告手続に期待される趣旨を没却したものとして、国賠法上違法である。
5 損害
(一) 懲罰的損害賠償
接見交通権は、憲法の理念である適正手続を実現し、誤判を防止するために不可欠の権利であり、その確立は、弁護士が戦後一貫して取り組んできた重要な課題の一つである。日本弁護士連合会が、この接見交通権の確立につき初めて決議したのは、昭和二九年のことであり、以来、弁護士会が、この問題についてした決議は優に一〇〇件を超えている。
このような度重なる決議にもかかわらず、接見交通権の確立に向けての動きは閉塞状況のまま推移したが、これに風穴を開けたのが、全国で相次いで提起された国家賠償訴訟である。そして、その成果に基づき、昭和六三年二月以降、日本弁護士連合会と法務省との間で接見交通に関する協議が開始され、平成三年三月にはその取りまとめがされ、いわゆる一般的指定制度が廃止されるに至った。
しかし、接見妨害はその後も後を絶たず、本件にみられるように、今また復活の兆しをみせている。しかも、本件の担当検察官は、事前に接見の申出をしたにもかかわらず、代替日時の指定すらしないまま接見を拒否し、「どうにでも好きに対処して下さい。」と放言し、また、指定の要件がないことが明らかであるのに接見指定をし、「通常の取扱いに従ったにすぎない。」と堂々と述べる有様である。「どうにでも好きに対処して下さい。」との発言は、準抗告審が接見妨害を抑止する機能を果たしていないことを示している。また、「通常の取扱いに従ったにすぎない。」との発言は、本件が異例の事態ではなく、そのような取扱いが蔓延していることを示している。
このように、戦後五〇年を経て、なお、接見妨害が、組織的に繰り返される状況の下において、これを根絶するには、被告に微々たる額の慰謝料を支払わせるのでは不十分であり、懲罰的賠償金を課すことによって、接見妨害が割に合わないことを明確に認識させるしか有効な手段は存在しない。
(二) 原告伯母の損害
原告伯母は、五月二四日から二六日までの連続三日間及び勾留満期日の前日である同月二八日の計四日間にわたり、公益の代表者たるべき検察官及び公正な判断者たるべき裁判官の憲法、国際人権B規約及び刑訴法を無視した不法行為により接見交通権を侵害された上、その間、本来不必要な四回にわたる準抗告等の申立てや担当検察官との交渉に無用な時間と労力を費やすことを余儀なくされ、著しい精神的苦痛を受けた。
したがって、原告伯母の精神的苦痛を慰謝し、かつ、今後の接見妨害を根絶するためには、被告に懲罰を科す意味も含めて、慰謝料は一〇〇〇万円が相当である。
また、原告伯母は、本件訴訟を提起するため弁護士に依頼することを余儀なくされた。本件における弁護士費用は、着手金及び報酬として二三〇万一〇〇〇円を下ることはない。
よって、検察官及び裁判官の前記不法行為により原告伯母が被った損害額は、合計で一二三〇万一〇〇〇円である。
(三) 原告児玉の損害
原告児玉は、六月五日には約三五分間、同月七日には約三〇分間、同月一一日には約二〇分間の計三回、時間にして約八五分間にわたり不当に待機させられただけでなく、接見時間をも不当に制限され、公益の代表者たるべき検察官の憲法、国際人権B規約及び刑訴法を無視した不法行為により接見交通権を侵害された上、その間本来不必要な担当検察官との交渉に無用な時間と労力を費やすことを余儀なくされ、著しい精神的苦痛を受けた。
したがって、原告児玉の精神的苦痛を慰謝し、かつ、今後の接見妨害を根絶するためには、被告に懲罰を科す意味も含めて、慰謝料は五〇〇万円が相当である。
原告児玉は、本件訴訟を提起するため弁護士に依頼することを余儀なくされた。本件における弁護士費用は、着手金及び報酬として一三二万円を下ることはない。
よって、検察官の前記不法行為により原告児玉が被った損害額は、合計で六三二万円である。
三 被告の主張
1 刑訴法三九条三項本文の無効主張について
(一) 憲法三四条前段との関係
接見交通権は、憲法三四条前段に由来する刑事手続上の重要な基本的権利であるが、他面において、憲法が刑事裁判制度を通じた国家刑罰権の実現による社会秩序の維持という公共の福祉の要請から、捜査機関による犯罪捜査を刑事裁判制度のための不可欠な前提としていることも自明であり、起訴前における捜査の重要性にかんがみると、憲法上、接見交通権等の弁護権と捜査の必要性との均衡・調和が要請されており、いかなる場合においても直ちに自由かつ無制約な接見が保障されているわけではない。加えて、刑訴法三九条三項ただし書において、捜査機関が接見指定権を行使するに当たって、「被疑者の防御の準備をする権利を不当に制限するものであってはならない。」と規定していること、同項にいう「捜査のため必要があるとき」については、最高裁判所判例によって限定的に解釈されていることなどにかんがみると、同項本文の規定は接見交通権等の弁護権と捜査の必要性との均衡・調和を図る要請を充足するものであり、憲法に違反しない。
(二) 国際人権B規約一四条三項(b)との関係
原告らの指摘する一般的意見及び被拘禁者保護原則は、それ自体、国際連合加盟国に対して何ら法的義務を課するものではない上、法的拘束力を有するものとして国際人権B規約の解釈基準となるものでもない。それらは、あくまでもガイドラインを示したものにすぎない。
国際人権B規約一四条三項(b)は、「防御の準備のために十分な時間及び便益を与えられ並びに自ら選任する弁護人と連絡すること」が保障される旨規定しているところ、刑訴法三九条三項ただし書は、「その指定は、被疑者が防御の準備をする権利を不当に制限するものであってはならない。」と規定している上、最高裁判所判例によって、同項に規定する接見の指定があくまでも必要やむを得ない例外的措置であると解釈されていることを考慮すると、刑訴法三九条三項本文は、被疑者の防御権を不当に侵害しない範囲で、被疑者の防御の準備を保護するため、その防御の準備のため自ら選任する弁護人と連絡することを規定した国際人権B規約一四条三項(b)の趣旨に沿いこそすれ、その趣旨に反するものではない。
2 接見指定要件について
(一) 刑訴法三九条一項は、逮捕・勾留中の被疑者に接見交通権を認め、同条三項は、捜査機関に「捜査のため必要があるとき」は、弁護人等の接見に関し、その日時、場所及び時間を指定する権限を与えている。
このうち、同条三項は、前記のとおり、接見交通権と捜査の必要性の調整を図るための規定であることから、「捜査のため必要があるとき」とは、被疑者の身柄そのものを現に利用して捜査を行っている場合等にのみ限定されるものではなく、罪証隠滅の防止等の必要性を含み、当該事案の性格・内容・背景、被疑事実の真相を解明するために必要な捜査の手段、方法、真相解明の難易度、捜査の具体的進展状況、被疑者の供述状況、関係人の捜査機関の捜査への対応状況、弁護活動の態様等被疑事実にかかるすべての事情を総合的に判断した場合に、弁護人等と被疑者との接見が直ちに又は無制限に行われたとしたならば、捜査機関が現に実施し又は今後実施することとなる被疑者、参考人の取調べ、証拠物の捜索押収等の捜査手段との関連で、迅速かつ適正に当該事案の真相を解明する上で支障を生ずるおそれが顕著であるときをいうと解すべきである。
(二) そして、捜査の中断による支障が顕著な場合とは、現に被疑者を取調べ中であるとか、実況見分、検証等に立ち会わせる必要がある場合や間近いときに右取調べ等をする確実な予定があって、弁護人等の必要とする接見等を認めたのでは右取調べ等が予定どおり開始できなくなるおそれがある場合に限られるものではない。
身柄の必要が競合する場面で、具体的にいかなる場合が捜査に顕著な支障が生じる場合に当たるかを網羅的に示すことは困難であるが、少なくとも、<1>弁護人等から申出のあった接見希望日時あるいは時間帯と競合する確実な取調べの予定があり、右日時あるいは時間帯に継続的に取調べを実施する必要性が極めて高い場合(以下「接見指定要件<1>」という。)、<2>弁護人等から申出のあった接見希望日時に確実な取調べ予定があり、当該取調べを実施する上において、物証、共犯者及び参考人と遮断して一定期間集中的に取調べを行う必要性が極めて高いにもかかわらず、弁護人等の特異な弁護活動等から、弁護人等との接見を認めると、共犯者等と遮断した取調べが困難となる場合(以下「接見指定要件<2>」という。)がこれに当たるというべきである。
そして、右場合のうち、それぞれ、その事情を当該個別の事実及び捜査状況に即して具体的に検討し、かつ、接見申出までの接見交通の回数等に照らし、当該接見を認めなくても、被疑者が防御の準備をする権利を不当に制限するものでない場合には、指定権行使が許されると解すべきである。以上の指定権行使の適否を判断する上での要素としては、事件の内容として、事案が複雑か否か、物証により犯罪の成否・犯人の特定が認定できる事案であるか否か、主として被疑者の取調べに頼らざるを得ない事案であるか否か、単独犯の事案か共犯の事案か、接見申出がされた時点の捜査の進展状況として、勾留満期に接近しているか否か、起訴・不起訴を決するに足る証拠資料の収集の程度、弁護活動の態様、罪証隠滅等の捜査妨害が行われたか否か、接見における弁護人の特異な言動等、弁護人が既に多数回接見しており、被疑者の防御権を不当に侵害しないと認められるか否かなどがある。特に、接見指定要件<2>については、被疑者らが事前に口裏合わせ等の罪証隠滅工作を行い、弁護人等にも、特異な言動や弁護活動が認められることなどにより、弁護人等との接見を認めると、共犯者等と遮断した取調べが困難となる具体的なおそれが認められる場合でなければならないと解する。これらの要素を総合勘案し、当該事案ごとに個別具体的に検討して、被疑者が防御の準備をする権利を不当に制限することがないように十分に配慮しつつ、右各場合には、接見指定ができると解すべきである。
(三) ところで、原告は、取調べ等の予定が間近であったかどうかは接見申出時を基準として判断すべきであり、弁護人等が接見申出時に即時の接見を要求するのではなく、将来の接見を希望するものである場合(事前連絡型)は、捜査機関は原則として接見指定できず、弁護人等が希望する接見申出を制限することはできないと主張する。
しかしながら、事前連絡型の場合に捜査機関は原則として接見指定をすることができないとすると、弁護人等の接見等希望日時に被疑者の取調べや実況見分等への立会が予定されていたとしてもこれらの捜査を予定どおり行うことができなくなり、捜査予定を大幅に変更せざるを得なくなるばかりか、遠方に居住しているなどの理由から当該日時にしか取調べができない参考人の取調べと並行して被疑者の取調べを行うことを予定していた場合、犯行状況の再現のための実況見分のように捜査に特殊な人的物的設備を必要とする捜査を予定していたが、当該施設を利用できる日が当該日時に限定されているような場合には当該捜査を行うこと自体を断念せざるを得なくなるのであって、このような結論が刑訴法三九条三項の趣旨を著しく逸脱するものであることは明らかである。
したがって、事前連絡型の場合には、接見等希望日時を基準として間近い時か否かを判断すべきである。
3 本件各接見指定の違法性について
(一) 本件接見指定(1) について
(1) 接見指定要件<1>該当性
室井検察官は、五月二三日の藤田に対する取調べ終了後、藤田の取調べ担当警察官である司法警察員佐々木幸雄(以下「佐々木警察官」という。)と協議の上、二四日から二六日までの三日間、終日、室井検察官又は佐々木警察官が藤田の取調べを行うこととし、原則として、午前中から夕食による休憩前までは佐々木警察官が、夕食による休憩後は室井検察官が藤田の取調べを行うとの捜査予定を確定した。そのため、室井検察官が原告伯母に対して接見指定を行った二四日の昼ころ、原告伯母の接見希望日時にはいずれも取調べを行う確実な予定があった。
この点に関して、原告伯母は、接見等を申し出た時点には確実な取調べ予定が存在していたとはいえない旨主張するが、室井検察官が接見指定要件の有無の判断を翌日まで留保することに原告伯母も了承していたのであるから、室井検察官が接見申出時以後に確定された捜査予定に基づいて接見指定要件の有無を判断したことを違法とする余地はない。
しかも、本件は、共犯者が多数いる会社ぐるみの資格商法詐欺事件であり、藤田及び共犯者らの処分を決定するためには、藤田及び共犯者らに対する取調べの結果が決定的な影響を及ぼす事案であったこと、本件接見指定(1) の指定時は、藤田の勾留一五日目であって、勾留延長満期が目前に迫っていた時期であり、かつ、二七日には勾留理由開示手続が予定されていたから実質的に捜査のために用いることができる時間は極めて限られたものであったこと、藤田及び共犯者らの供述内容が区々に分かれていたことなどから、藤田の供述が真実であるか否かの心証を得るためには、二四日、二五日及び二六日の三日間、それぞれ終日、佐々木警察官及び室井検察官が継続して藤田に対する取調べを実施する必要性が極めて高かった。
他方、原告伯母は、一九日から二三日までの間、五日間にわたって、連日、一〇分ないし三〇分間藤田と接見しており、原告伯母が藤田から弁護人として選任される前は、藤井弁護士らも藤田と接見していたから、本件接見指定(1) は藤田の防御の準備をする権利を不当に制限するものではなかった。
したがって、前記接見指定要件<1>に該当する。
(2) 接見指定要件<2>該当性
原告伯母の接見希望日時に確実な取調べ予定があったこと、本件接見指定(1) が藤田の防御の準備をする権利を不当に制限するようなものではなかったことは前記のとおりである。
そして、本件は、弁護人が証拠隠滅工作を助言し、虚偽の内容を記載した上申書を警視総監宛に送付するよう助言し、又は否認をそそのかすなどの特異な弁護活動を行っていたから、藤田の供述が真実か否かの心証を得るためには、少なくとも三日間程度は共犯者が具体的にいかなる供述をしているかを知らせずに取調べを行ったり、時期を見計らって共犯者の供述を示すなどして取調べを行う必要性が極めて高く、弁護人の特異な弁護活動から、弁護人との接見を認めると、共犯者等と遮断した取調べが困難となる状況にあった。
したがって、前記接見指定要件<2>に該当する。
(3) なお、二五日は、結果的には午前一一時二一分ころから午後一時三〇分ころまでの間は、昼食及びそれに引き続く休息のために取調べが行われていないが、その時間帯は、取調べの時間と一環するか、そうでなくとも密接不可分の関係にあるというべきであるし、また、昼食時間及び休息時間は最小限度それ自体のために確保される必要があるため、原告伯母の接見が右時間帯に行われることは、右接見時間分だけ昼食時間及び休息時間を延長して確保しなければならなくなるから、延長された昼食時間及び休息時間が、実際に藤田の取調べが行われた時間帯に食い込んだことは明らかであり、原告伯母の希望する接見と競合する確実な取調べ予定があったことは明らかである。
(4) 以上によれば、室井検察官が「捜査の中断による支障が顕著な場合」に該当するか否かについて十分な検討を加えるべき義務に違反したといえないことは明らかである。
(5) また、原告伯母は、室井検察官が原告伯母と協議した上で代替日時を指定して告知すべき義務があるにもかかわらず、これを怠って本件接見申出(1) を制限した旨主張するが、室井検察官は、本件接見申出(1) に対して、二七日に代替日時を指定すべく原告伯母と協議しようとしたにもかかわらず、原告伯母が自己の希望する接見日時にこだわり、代替日時について協議する姿勢を示さなかったため、代替日時を指定できなかったのである。
(二) 本件接見指定(2) について
(1) 接見指定要件<1>及び<2>該当性
五月二四日から二六日の三日間においては、終日、室井検察官又は佐々木警察官による藤田の取調べが予定されており、原告伯母の接見希望日時には取調べを行う確実な予定があったこと、二三日までの接見交通の回数・間隔等から、接見指定によって藤田が防御の準備をする権利を不当に制限するものでないことは前記のとおりであるし、二六日も藤田や共犯者らの供述状況から藤田の供述が真実か否かの心証を得るために継続して取調べを行う必要性が高く、弁護人の特異な弁護活動等から、共犯者等から遮断して取調べを行う必要性も高かった。
したがって、前記接見指定要件<1>及び<2>に該当する。
(2) なお、二六日午前中には藤田の取調べが行われなかったが、これは、同日午前九時ころになって、急遽、被疑者らの取調べを担当している司法警察員による捜査会議が行われることになり、かつ、右捜査会議が終了したのが午前一〇時三〇分ないし午前一一時であった上、午後には室井検察官による取調べが予定されていたからである。したがって、同日の午前中に予定されていた佐々木警察官による藤田の取調べが行われなかったことが、本件接見指定(2) を違法とする理由とはならない。
(3) 以上によれば、室井検察官が「捜査の中断による支障が顕著な場合」に該当するか否かについて十分な検討を加えるべき義務に違反したといえないことは明らかである。
(4) また、原告伯母は、室井検察官が、単に取調べ予定があることのみを理由として、原告伯母との間での協議・調整義務を尽くすことなく接見等の申出を制限したと主張するが、室井検察官は、原告伯母と協議した上で、接見等の日時を二七日午前一一時から午後〇時までの間の三〇分間と指定したのであるから、原告伯母の右主張も理由はない。
(三) 本件接見指定(3) について
(1) 接見指定要件<1>該当性
藤田は、五月二六日の取調べにおいて、これまでの弁解を撤回し、被疑事実を認める旨の供述を始めたが、二七日午前一一時から午前一一時三〇分までの間に原告伯母が藤田と接見した後の取調べにおいて、前日の供述を翻し、被疑事実について再び否認する供述を行った。そのため、早急に藤田の相矛盾する供述のうちいずれが真実であるか真偽の確認を行う必要があり、また、藤田の勾留満期である二九日を目前にして、会社組織等に関する証拠物の説明について藤田から供述調書を作成する必要があった。藤田の勾留満期が二九日であり、同日には藤田に対する起訴・不起訴を決せざるを得ないことを考慮すると、実質的に藤田の取調べを行う時間は二八日以外になく、同日中に前記の取調べを行う必要があったので、同日は、終日、佐々木警察官による取調べを行う確実な予定が存在していた。そして、事案の複雑性、捜査の進捗状況、残余の勾留期間、藤田の取調べ事項に照らすと、原告伯母が藤田との接見を希望した二八日は、継続して藤田に対する取調べを実施する必要性が極めて高い状況にあった。
他方、原告伯母は、一九日から二三日までの間、五日間にわたって、連日、一〇分ないし三〇分間藤田と接見していた上、二七日にも三〇分間藤田と接見しているから、本件接見指定(3) が藤田の防御の準備をする権利を不当に制限するものでもなかった。
したがって、前記接見指定要件<1>に該当する。
(2) 接見指定要件<2>該当性
原告伯母の接見希望日時に確実な取調べ予定があったこと、室井検察官の接見指定が藤田の防御の準備をする権利を不当に制限するようなものではなかったことは前記のとおりである。
そして、本件は、弁護人の特異な弁護活動から、弁護人との接見を認めると、共犯者等と遮断した取調べが困難となる状況にあった。
したがって、前記の接見指定要件<2>に該当する。
(3) なお、二八日においても、食事及びこれに引き続く休息時間には取調べが行われてはいないが、これを理由に確実な取調べ予定がなかったということができないことは前述したとおりである。
(4) 以上によれば、室井検察官が接見指定要件の検討義務に違反したといえないことは明らかである。
(5) 原告伯母は、室井検察官が、本件接見申出(3) に対し、取調べの具体的予定や内容を確認することを怠ったと主張するが、室井検察官は、二七日には二九日までの取調べ予定を確定しており、取調べ状況等を司法警察員に確認しなくとも接見指定要件を判断することができたから、このような場合には司法警察員に取調べ状況を確認する義務はない。
(6) また、原告伯母は、室井検察官が原告伯母と代替日時について協議しなかったとか、室井検察官が指定した日時は弁護人等ができるだけ速やかに接見を開始できるというものではなかったと主張するが、これは原告伯母が二八日の接見にこだわり、代替日時の協議に応じようとしなかったためである。
(四) 本件接見指定(4) について
(1) 接見指定の実体・内容・手続要件違反の主張について
馬場検察官が原告児玉から接見申出を受けたのは、六月五日午前一一時〇五分すぎであり、右時点においては、原告児玉の無制限の接見を認めることにより捜査に支障が生じるおそれが顕著であったから、接見時間を二〇分間とする指定をしたのであり、そこに何らの違法はない。
まず、接見申出があった時点では、同日の昼食後である午後一時から取調べを開始する確実な予定があった。そして、代用監獄に勾留されている被疑者の昼食時刻は正午とされている上、身柄拘束中の被疑者には、その健康維持の必要上、昼食の際に相当の時間の休憩をとらせる必要があり、警視庁留置管理課では、在監者の健康維持管理の必要上在監者には昼食開始時刻から一時間を休憩時間として確保する取扱いをしていた。したがって、午後一時から取調べを開始するためには、正午には昼食を開始しなければならず、正午から昼食を開始するためには一五分程度の余裕をもって接見を終了させる必要があった。
次に、当時の捜査状況に照らせば、同日午後一時からの取調べ開始を遅らせると捜査に支障が生じるおそれがあった。すなわち、赤松は、一日に再逮捕され、二日までに再逮捕事実の概略等について取調べを受けたが、三日には事件送致のため東京地方検察庁に、四日には勾留質問のため東京地方裁判所に押送されたため、右両日は司法警察員による取調べは行っていなかった。そこで、五日には、司法警察員による赤松の再逮捕事実の詳細等についての本格的な取調べが予定されていた。
なお、赤松の取調べは、司法警察員市川敦(以下「市川警察官」という。)が、立会人の司法警察員今川清治(以下「今川警察官」という。)とともに行うことになっており、もともと五日は午前中から取調べが予定されていたが、今川警察官が、同日午前中に開始された別件出資法違反被疑事件の捜索に赴いたので、取調べ開始予定時刻が午後一時となっていたものである。
赤松は、再逮捕事実について概ね認めていたものの、欺罔文言の一部について否認しており、再逮捕事実の詳細について早期に取調べる必要があった。また、実行行為者である赤松に犯行を指示する立場にある藤田は、検察官による弁解録取の際「従業員に詐欺の指示をしていない。」旨弁解して共謀を否認していたことから、藤田から指示を受けた奥田利行(以下「奥田」という。)及び赤松らを早期に取り調べ、藤田からの指示も含めて犯行の詳細についての供述を得、その結果を踏まえて藤田を十分に取調べる必要が大きかった。奥田及び赤松の取調べに当たっては、両名を並行して取調べ、その供述間に食い違いがあった場合は再度の取調べ等をして、両名の供述に矛盾のないことを確認しながら捜査を進める必要があった。奥田については五日午前九時すぎから取調べが行われていたもので、これに併せて赤松の取調べを行い、その供述内容を奥田の供述と突き合わせ、さらには、藤田からの指示に関する事項についても、早期に赤松の取調べを行い、必要に応じて直ちに裏付け捜査を行う必要が大きかった。
よって、当時の捜査状況に照らせば、同日午後一時に予定されていた赤松の取調べ開始が遅れれば、これに伴って奥田の取調べの進行が遅れ、藤田の取調べにも支障が生じ、捜査に支障が生じるおそれがあった。
ところで、市川警察官は、今川警察官の帰署を待って、同警察官とともに赤松の取調べをする予定であったが、今川警察官は前記のとおり、同日午前中に開始された別件出資法違反被疑事件の捜索に赴いていたところ、捜索時間が延び帰署が遅れたため、同日、市川警察官は赤松の取調べを実施することはできなかった。午後一時から予定されていた取調べが結局実施できなかったのは、別件事件の捜索終了の遅延という事後に生じた予定外の事情によるものである。
なお、馬場検察官は、原告児玉から詐欺被疑事件が通知事件となった理由について説明を求められ、これに応答した後に、直ちに捜査担当警察官に電話をして取調べの予定を確認し・検討した上、指定要件があると判断したのであって、原告児玉主張の手続要件違反はない。
したがって、馬場検察官が、接見時間を午前一一時四五分までに制限した本件接見指定(4) に違法はない。
(2) 接見開始遅延の主張について
接見指定は、「捜査のために必要があるとき」に当たるかどうかの判断を経た上でされるべきものであるから、弁護人から接見申出があった際に検察官が直ちに応答することなく、指定要件の存否について判断し、回答を連絡するのに相当な時間弁護人を待機させることになっても違法ではない。
原告児玉は、接見指定権者である馬場検察官に事前連絡することなく上野警察署に赴き、留置係の警察官に接見申出をしたのであり、馬場検察官が留置係の警察官を通じて接見申出を受けたのは、五日午前一一時〇五分すぎであった。その際、馬場検察官は、留置係の警察官に代わって電話に出た原告児玉から詐欺被疑事件が通知事件となった理由について説明を求められ、これに応答した後に、直ちに捜査担当警察官に電話をして取調べの予定を確認した上で、指定要件があると判断し、午前一一時二二分に、接見時間を午前一一時二五分から午前一一時四五分とする接見指定書をファックスで送信したのであって、馬場検察官が接見申出を受けてから、原告児玉が接見できるような措置を講じるまでにかかった時間はわずか二〇分間でしかない。しかも、馬場検察官が接見の申出を受けた際には、原告児玉から通知事件となった理由について説明を求められてこれに応答するのに相当の時間をかけているのであるから、回答までに実質的に待機させた時間は更に少なく、わずか数分にすぎない。馬場検察官のファックスで送信した指定書が現実に留置係の警察官に到達したのが午前一一時三五分ころであったとしても、その原因は、右指定書が到達したファックス受信機が留置係と離れた場所にあったことなどの同署の内部の事務体制によるものと思われ、もとより馬場検察官が責めを負うべき理由はない。馬場検察官は、原告児玉から接見申出を受けてから、約二〇分後には回答をしているのであって、原告児玉をこの程度の時間待機させるのは、回答に要する合理的な時間の範囲内である。接見の申出後回答までにこの程度の時間を要することは弁護人においても当然に予測の範囲内というべきである。したがって、馬場検察官には何ら違法はない。
(五) 本件接見指定(5) について
(1) 刑訴法三九条三項の接見指定は、捜査の支障の有無を判断した上でされるものであるから、接見指定権を有する者は捜査の主宰者たる検察官である。本件は、津野検察官を主任検察官とする共同捜査が行われており、津野検察官が接見指定権を有していた。また、本件の共同捜査に加わって赤松の取調べ等を担当した馬場検察官は、赤松の取調べ等に関しては捜査の支障の有無を判断できる立場にあったから、赤松の弁護人との接見に関しては接見指定権を有していた。
(2) 原告児玉は、接見指定権者である検察官に事前連絡することなく上野警察署に赴き、検察官が既に退庁していても当然の時刻である午後七時三〇分ころ接見の申出をした。
原告児玉から右接見申出があった当時、指定権者である馬場検察官も津野検察官も既に退庁しており、原告児玉の右接見申出が上野警察署留置係の警察官及び石井事務官を通じて津野検察官の下に到着したのは、津野検察官が帰宅直後の午後七時五五分ころであった。津野検察官は、石井事務官に対し、現時点での取調べの有無ないしその予定を確認した上、現に取調べをしておらず、取調べの予定もないのであれば直ちに接見させるように指示し、これによって、原告児玉は午後八時から接見を開始したものであり、原告児玉が接見申出から接見開始まで待機したのは三〇分間にすぎない。接見申出をした時刻が検察官の通常の執務時間外である午後七時三〇分であるから、指定権者たる検察官に連絡をとるのに通常よりも時間を要することは弁護人においても予測の範囲内であり、津野検察官の行為に何ら違法はない。
(3) ところで、本件接見申出(5) が津野検察官に到達する前に、石井事務官が接見指定をするかのような言動を行っているが、検察事務官は、検察官を補佐し、又はその指揮を受けて捜査を行うものであり(検察庁法二七条三項)、独自の接見指定権は有していない。本件では、石井事務官が津野検察官から接見指定につき委任を受けていたものでもないから、石井事務官が行った接見を指定するかのような言動は、同事務官の指定権の行使ではなく、津野検察官に代わっての指定権の行使でもない。石井事務官は、指定についての判断権者である津野検察官に連絡をとって判断を仰ぐまでの間、弁護人を待たせることを懸念する余り、指定権がないのに、二〇分接見させるとの接見指定するかのような言動を行ったものである。したがって、本件の事実経過は、石井事務官の行為によって一時的には津野検察官による接見指定処分がされたと評価され得る事態になったものの、その後、原告児玉が右指定の撤回を要求し、石井事務官から連絡を受けた津野検察官によって直ちに是正措置が採られたというものであった。これを全体的かつ客観的にみれば、石井事務官の行為から、原告児玉の指定の撤回要求を経て、接見指定権者たる津野検察官の是正措置までの一連の経過は、弁護人との接見指定に関する協議を含めた接見指定権者たる検察官による接見指定の要否の判断過程と評価され得るものである。接見指定権者たる検察官が一旦は接見指定をしようとしたが、弁護人からその撤回を求められ、弁護人との協議に基づいて最終的に接見指定をしないとしたのであれば、接見指定処分はなかったと評価すべきであり、本件はこれと実質的には何ら異ならないのであるから、本件においても接見指定処分はなかったと評価すべきである。
(六) 本件接見指定(6) について
(1) 馬場検察官は、六月一一日午後七時〇五分ころ、原告児玉がまもなく上野警察署に来署して接見申出をするらしい旨を同署留置係の警察官から電話連絡を受けたが、その時点において、実際には間近いときに赤松の取調べの予定はなかったから、指定の要件は存在しなかった。
しかし、馬場検察官は、赤松の同日の取調べの予定について前日に市川警察官と打合せを行い、同日夕食後市川警察官が取調べを行うことになっていたので、同署留置係の警察官から前記電話連絡があった際、同日夕食後には確実な取調べの予定があると認識していた。当時は再逮捕事実についての勾留八日目であり、市川警察官の取調べは、同事実の犯行状況自体については概ね終了していたが、アルファネットワークの営業実態等について引き続き取り調べる必要があり、しかも、共犯者である藤田はまだ被疑事実を完全に認めるには至っていなかったことから、藤田からの指示内容について赤松から更に詳細に供述を得、これを基に藤田の取調べを行う必要があったもので、同日夕食後にも赤松を取り調べる必要性は高かったこと、取調べの予定が急遽消失したことは市川警察官の緊急入院という突発的な事情によるもので、馬場検察官において知り得なかったことにかんがみると、馬場検察官が接見指定の要件が存在していると誤信したことはやむを得なかったというべきである。馬場検察官は、上野警察署留置係の警察官から前記連絡があったとき、まもなく取調べが開始されるものと認識していたので、就寝時刻まで無制限の接見を認めると予定されていた取調べができなくなると考えたが、その開始を二〇分程度遅らせて弁護人と接見させても捜査に支障はないだろうと判断し、接見時間を二〇分間と制限する指定をした。ところが、馬場検察官は、原告児玉の抗議を受けて、その時点においてもまだ取調べが開始されていないことを知るとともに、接見時間について譲歩が可能かどうか検討するために、市川警察官と連絡をとろうとして初めて取調べの予定の消失を知ったもので、これにより、直ちに前記接見指定を撤回している。
これにつき、原告らは、馬場検察官は、接見申出を受けた時、取調べの予定の有無を確認して具体的指定要件の存否を判断しなければならないのに、その義務を怠った旨主張する。
しかし、検察官は、弁護人等から被疑者との接見の申出を受けた時、常に警察官による当該被疑者に対する取調べ等の予定の有無を確認しなければならない義務があるわけではない。すなわち、通常の捜査においては、警察官による被疑者に対する具体的な取調べ等の予定のすべてが必ずしも事前に検察官に知らされるものではないため、検察官は、弁護人等から被疑者との接見の申出がされた時は、直ちに警察官による取調べ等の予定の有無を確認しなければならない。しかるに、検察官が、事前に警察官と当該被疑者の具体的な取調べ等の予定について打合せをしており、しかも、打ち合わせていた取調べ等の予定を変更せざるを得なくなったときには警察官から検察官に直ちにその旨の連絡がされることになっていた場合には、弁護人等から被疑者との接見の申出がされた時に、その都度形式的に警察官に右取調べ予定の有無を確認すべき義務があるとはいえないからである。本件において、馬場検察官は、前日に、一一日の夕食後は市川警察官が赤松を取り調べるという具体的な取調べ予定を同警察官と打ち合わせていた上、当時の捜査状況に照らすと、万一右具体的な取調べ予定を変更せざるを得なくなった場合は、同警察官からその旨の連絡があることが事実上期待される状況にあった。したがって、同日、原告児玉が赤松との接見を申し出た時点において、馬場検察官には同警察官に赤松の取調べ予定を確認すべき義務がなく、原告らの右主張はその前提において失当である。
(2) 原告児玉が上野警察署において接見の申出をしたのが午後七時三五分ころであれば、原告児玉が接見開始まで待機したのは約二〇分間にすぎず、そもそも、接見開始までにこの程度の時間待機を要することはもともと弁護人においても予測の範囲内というべきであるから、本件接見指定(6) は違法ではない。
4 準抗告決定の違法主張について
裁判官の職務行為が、国賠法一条一項の違法性を有するには、当該裁判官が違法又は不当な目的をもって裁判をしたなど裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情があることを必要とするところ、河邉裁判官及び三上裁判官の職務行為に右のような特別の事情は存在しない。
原告伯母は、本件のような準抗告の申立てに対する決定には右法理は適用されない旨主張するが、右法理は争訟の裁判に限らず、広く裁判官の職務行為一般に妥当するから、原告伯母の右主張は失当である。
5 損害について
(一) 懲罰的損害賠償について
不法行為に基づく損害賠償制度は、被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し、加害者にこれを賠償させることにより、被害者が被った不利益を補てんして、不法行為がなかった状態に回復させることを目的とするものであるから、原告らの主張する懲罰的損害賠償は主張自体失当である。
(二) 原告伯母の損害について(本件接見指定(3) )
原告伯母は山内裁判官の勧告案を承諾し、新たに指定された日時に藤田との接見を行ったのであるから、結果的には、接見交通の目的を達したものといえるし、申出日時の接見がかなわなかった点もこれを承諾していることからすれば、その接見交通権の侵害はなかったものというべきである。また、仮に、当初の本件接見指定(3) により当初申出の日時に接見できなかったことにより、多少の精神的苦痛を被ったとしても、山内裁判官の勧告案を中心とする交渉を経て翌日には接見が可能となり、原告伯母もこれを承諾したことからすれば、原告の右精神的苦痛もほとんどが慰謝されたと認められ、精神的損害については、金銭をもって賠償すべき損害は残っていないというべきである。また、準抗告の申立てや担当検察官との交渉に時間と労力を要したことは、それ自体をみれば弁護士としての職務上それほどの負担とは認められない上、前記のとおり、裁判官の勧告案を承諾し、翌日より早い時間の接見が可能となったことにより、右同様に金銭により賠償すべき精神的損害が残っているとは認められないというべきである。そうすると、少なくとも本件接見指定(3) においては、原告伯母には、金銭をもって賠償すべき精神的損害はない。
(三) 原告児玉の損害について
(1) 接見までに不当に待機させられた精神的苦痛について
原告児玉は三回にわたり約二〇分間ないし約三五分間にわたり不当に待機させられたと主張しているが、そのいずれにおいても、検察官に事前に何らの連絡もせずに直接警察署を訪れて即時の接見を申し出たものであるため、接見の申出を受けた警察官が接見指定権限を有する検察官へ右の申出があったことを電話連絡し、その具体的措置について指示を受けるなどの手続を採る必要があり、右待機の時間にはこのような事務手続に要した時間も含まれているのであるから、この程度の待機時間は、金銭によって賠償すべき精神的損傷とは到底認められないというべきである。
特に、本件接見申出(5) については、検察官の通常勤務時間外における接見申出であるから、仮に石井事務官が、当初から、津野検察官の帰宅を待ってその指示を仰ぎ、接見指定しないとの津野検察官の指示を伝えるまでの約三〇分間接見開始が遅れたとしても、津野検察官及び石井事務官の措置が違法でないことは明らかである。そうだとすれば、石井事務官の行為により一時的には接見指定処分がされたと評価され得る事態になったものの、結果的には、石井事務官が当初から本来の手続を採った場合と比較すると、原告児玉の接見開始時刻は何ら遅れておらず、不当に待機させられたというものではない。原告児玉にしても、津野検察官又は馬場検察官に事前に何らの連絡もせずに、かつ、検察官の通常勤務時間から約一時間四五分も経過した午後七時三〇分ころ、上野警察署を訪れて即時の赤松との接見を申し出たのであるから、津野検察官及び馬場検察官の両名共が帰宅途中であり、直ちに連絡がとれず、三、四〇分程度は接見を待たされることがあり得ることは十分に予想できる事態であったのである。
したがって、原告児玉は、石井事務官の行為により、国賠法一条一項によって填補され得べき何らの損害も被っていないというべきである。
(2) 接見時間を制限されたことによる精神的苦痛について
本件接見申出(4) において、原告児玉は、馬場検察官の接見指定に対し、何ら抗議することなく接見を開始した上、接見終了後も何ら抗議していないのであるから、このような原告児玉の態度にかんがみると、原告児玉の精神的苦痛は、金銭により賠償すべき損害とはいえない。また、本件接見申出(5) 及び(6) においては、最終的には接見指定は撤回されているのであるから、接見時間を制限されたことによる損害は問題とならない。
(3) 担当検察官との交渉に労力を要したことによる精神的苦痛について
原告児玉は弁護士であるから、担当検察官との交渉に労力を要したこと自体は職務上それほどの負担とはいえないし、本件接見申出(5) 及び(6) においては、原告児玉の抗議により時間に制限のない接見が認められているから、原告児玉に金銭をもって賠償すべき精神的苦痛が生じたということはできないし、少なくとも時間制限のない接見が可能となったことにより慰謝されたというべきである。
第三当裁判所の判断
一 刑訴法三九条三項本文の無効の主張について
1 憲法三四条前段違反の主張について
まず、原告らは、刑訴法三九条三項本文の規定が憲法三四条前段に違反すると主張するので、この点について判断する。
(一) 憲法三四条前段は、被疑者に対し、弁護人を選任した上で、弁護人に相談し、その助言を受けるなど弁護人から援助を受ける機会を持つことを実質的に保障しているものと解すべきであり、刑訴法三九条一項が被疑者と弁護人等との接見交通権を規定しているのも、憲法三四条の右の趣旨にのっとり、身体の拘束を受けている被疑者が弁護人等と相談し、その助言を受けるなど弁護人等から援助を受ける機会を確保する目的で設けられたものであって、憲法の保障に由来するものであるということができる。
(二) もっとも、憲法は、刑罰権の発動ないし刑罰権発動のための捜査権の行使が国家の権能であることを当然の前提とするものであるから、被疑者と弁護人等との接見交通権を刑罰権ないし捜査権に絶対的に優先するような性質のものとしてはいないのであって、接見交通権の行使と捜査権の行使との間に合理的な調整を図ることを予定しているのである。
(三) ところで、刑訴法三九条は、一項において接見交通権を規定する一方、三項本文において、接見交通権の行使につき捜査機関が制限を加えることを認めている。この規定は、刑訴法において身体の拘束を受けている被疑者を取り調べることが認められていること、被疑者の身体の拘束については刑訴法上最大でも二三日間(内乱罪等に当たる事件については二八日間)という厳格な時間的制約があることなどにかんがみ、被疑者の取調べ等の捜査の必要と接見交通権の行使との調整を図る趣旨で置かれたものである。そして、刑訴法三九条三項ただし書は、捜査機関のする右の制限をあくまで必要やむを得ない例外的措置であって、被疑者が防御の準備をする権利を不当に制限することは許されない旨を明らかにしている。
このような刑訴法三九条の立法趣旨、内容に照らすと、捜査機関は、弁護人等から被疑者との接見等の申出があったときは、原則としていつでも接見等の機会を与えなければならないのであり、同条三項本文にいう「捜査のため必要があるとき」とは、右接見等を認めると取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生ずる場合に限られ、右要件が具備され、接見等の日時等の指定をする場合には、捜査機関は、弁護人等と協議してできる限り速やかな接見等のための日時等を指定し、被疑者が弁護人等と防御の準備をすることができるような措置を採らなければならないものと解すべきである。そして、弁護人等から接見等の申出を受けた時に、捜査機関が現に被疑者を取調べ中である場合や実況見分、検証等に立ち会わせている場合、また、間近い時に右取調べ等をする確実な予定があって、弁護人等の申出に沿った接見等を認めたのでは、右取調べ等が予定どおり開始できなくなるおそれがある場合などは、原則として右にいう取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生ずる場合に当たると解すべきである。
(四) そして、刑訴法四三〇条一項及び二項が、捜査機関のした三九条三項の処分に不服がある者は、裁判所にその処分の取消し又は変更を請求することができる旨を定め、捜査機関のする接見等の制限に対し、簡易迅速な司法審査の道を開いていることをも考慮すれば、刑訴法三九条三項本文の規定は、憲法三四条前段の弁護人依頼権の保障の趣旨を実質的に損なうものではないというべきである。
(五) したがって、刑訴法三九条三項本文の規定が、憲法三四条前段に違反するとの原告らの主張は理由がない。
2 国際人権B規約一四条三項(b)違反の主張について
次に、原告らは、刑訴法三九条三項本文の規定が規約人権委員会の一般的意見によりその解釈基準を定めている国際人権B規約一四条三項(b)に違反すると主張するので判断するに、刑訴法三九条三項ただし書は、捜査機関が接見等の日時等を指定するに当たって被疑者が防御の準備をする権利を不当に制限してはならない旨規定しており、前記のとおり、右接見等の日時等の指定の要件、内容及び方法等についてはこれを限定的に解釈し、捜査機関が接見等の日時等を指定する場合でも、弁護人等ができるだけ速やかに接見等を開始することができるよう、かつ、その目的に応じた合理的な範囲内の時間を確保することができるように配慮すべきであると解するのが相当であることからすれば、刑訴法三九条三項本文が国際人権B規約一四条三項(b)に違反するものとは認められない。
また、原告らの指摘する被拘禁者保護原則は、国際連合加盟国に対してガイドラインを示したものにすぎず、何らの法的義務を課すものではないので、国際人権B規約の解釈基準を定めたものと解することはできない。
したがって、原告らの右主張は理由がない。
二 接見指定要件について
1 前記のとおり、刑訴法三九条の立法趣旨、内容に照らすと、捜査機関は、弁護人等から被疑者との接見等の申出があったときは、原則としていつでも接見等の機会を与えなければならないのであり、同条三項本文にいう「捜査のため必要があるとき」とは、右接見等を認めると取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生ずる場合に限られ、右要件が具備され、接見等の日時等の指定をする場合には、捜査機関は、弁護人等と協議してできる限り速やかな接見等のための日時等を指定し、被疑者が弁護人等と防御の準備をすることができるような措置を採らなければならないものと解すべきである。
そして、弁護人等から接見等の申出を受けた時に、捜査機関が現に被疑者を取調べ中である場合や実況見分、検証等に立ち会わせている場合、また、間近い時に右取調べ等をする確実な予定があって、弁護人等の申出に沿った接見等を認めたのでは、右取調べ等が予定どおり開始できなくなるおそれがある場合などは、原則として右にいう取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生ずる場合に当たると解すべきである。
2 この点に関し、原告らは、取調べの予定が間近かどうかは接見申出時を基準として判断すべきであるから、弁護人等が即時の接見等を求めるのではなく、将来の接見等を希望する場合(事前連絡型)には、捜査機関は原則として弁護人等が希望する接見申出を制限することができない旨主張する。
しかしながら、このように解すると、弁護人らが将来の接見等を希望するときには、捜査機関がいかに重要な捜査等の確実な予定を立てていたとしても、また、その予定を変更せざるを得なくなることによって捜査に顕著な支障が生ずることになったとしても、右弁護人等の接見等を認めなくてはならないこととなるが、それが接見交通権の行使と捜査権の行使との間の合理的な調整を図ることにならないことは明らかであるから、弁護人等が希望する接見等の希望日時を基準として、その時間又は間近い時に取調べをする確実な予定があって、弁護人等の申出に沿った接見等を認めたのでは右取調べが予定どおり行えなくなるおそれがある場合などは、原則として前述した取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生ずる場合に当たると解すべきである。
三 本件接見申出(1) ないし(3) について
1 争いのない事実等、証拠(甲一の1、2、二、三の1、2、四、五の1、2、六、七の1、2、八、一四の1、2、一五、一六、一七の1、一八の1、一九の1、9、二〇、二五、二九、三二、三五、三六、乙一、二、六、八、一五ないし一九、二四、二五、二七、証人室井和弘、同津野正文、同藤井成俊、原告伯母治之本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(一) 本件資格商法詐欺事件の捜査
(1) 警視庁生活安全部生活経済課は、平成七年七月、会社ぐるみの資格商法詐欺事件(以下「本件資格商法詐欺事件」という。)として、アルファネットワークやその関係会社を一斉に捜索し、関係者の任意の取調べ等に着手した。
本件資格商法詐欺事件は、アルファネットワーク等の役員や社員が、公的機関を装い、多数の被害者に対して、「既に各種資格試験取得のために教材を購入したり、受講料を支払ったりしながら資格を取得できなかった人を対象とした救済制度が設けられた。この制度によって選抜された人については、救済制度に登録すれば国家試験に必ず合格し、資格取得後は仕事を斡旋するので収入が得られる。」などと虚偽の事実を申し向け、登録料名下に多額の金銭を騙取していた疑いがあるというものであって、会社ぐるみによる組織的犯行の疑いが強かった。
(2) 他方、アルファネットワークの取締役統括部長の藤田らは、同月一八日、右捜査への対応策について、藤井弁護士に相談し、アルファネットワークの営業実態を説明したところ、藤井弁護士は、詐欺罪は成立しないと考え、警察への出頭拒否はしないこと、経験した事実のみを話し、嘘は絶対につかないこと、言いたくないことは黙秘できることなどについて助言した。また、藤井弁護士は、同月二八日、別件の打合せのために福岡に赴いた際、同様の捜索を受けていたアルファネットワークの関連会社である福岡アルファネットワークの社員一〇名程度から法律相談を受け、同様の助言をした。
また、警視庁は、同年八月ころから、アルファネットワークの社員を呼び出して取調べを始めたが、藤井弁護士は、警視庁から呼出しを受けたとして相談に赴いた数名の社員に対しても従前と同様の説明をし、九州や名古屋にいた社員が呼出しを受けた場合には、旅費等の負担があるので、出頭する日を変更してもらうこともできるなどと助言した。
さらに、藤井弁護士は、同年九月三〇日、アルファネットワークの本店の営業員赤松から相談を受けた際、赤松が話す同人に対する取調べの内容が行き過ぎであると考え、適正な取調べをしてもらうための上申書を警視庁に提出することを勧めて、その書面の文案を手渡し、他の数名の社員にも同様の助言をした。赤松は、右助言に従い、同月二三日、警視総監宛に捜査の適正化を要請する旨の上申書を送付した。
(3) 警視庁は、その後もアルファネットワークの社員の取調べを継続して行ったが、その捜査は難航していた。
なお、このように捜査が難航する背景として、警視庁は、アルファネットワークの幹部役員らと同社の顧問的立場にある藤井弁護士らが、組織ぐるみで捜査に対して徹底抗戦しており、互いに通謀して部下の営業員らに捜査に協力しないよう働きかけたり、取調べの際に暴行、脅迫を受けたなどと虚偽の事実を記載した抗議文を警視総監宛に送付してきていることがあると認識していた。
(4) 東京地方検察庁刑事部一方面主任検事であった津野検察官は、警視庁生活安全部生活経済課から右事件の相談を受け、平成八年五月八日から同月一〇日にかけてアルファネットワークの社員ら一七名を逮捕し、いずれも勾留請求し、併せて刑訴法八一条に基づく接見禁止決定を得た。
右被疑者のうちには、アルファネットワークの社長の安東昭裕(以下「安東」という。)ほか被疑事実を認める者が八名いたが、他方、取締役統括部長で首謀者であると考えられていた藤田ほか九名が被疑事実を否認したため、津野検察官は、否認した被疑者については、捜査のために必要があるときは弁護人等との接見等の日時等を指定することがある旨の接見等の指定に関する通知書を警視庁総務部長宛に送付した。
津野検察官は、主任検察官として右捜査を担当したが、数名の検察官が各被疑者の取調べを応援することとなった。
(5) 藤井弁護士は、警視庁の佐々木警察官からアルファネットワークの社員が逮捕されたと聞き、藤田らを弁護するには東京の弁護士を依頼する必要があると考えて、従前からの知人であった濱口弁護士に弁護人を探してもらいたい旨依頼したところ、濱口弁護士は、東京弁護士会の刑事弁護委員会に所属している弁護士に依頼することにした。
(二) 本件各接見申出までの経過
(1) 藤田は、五月八日、詐欺容疑で逮捕され、同月一一日、本部留置場に勾留され、併せて刑訴法八一条に基づく接見禁止決定を受けた。なお、右勾留の期間は、同月一七日に同月二九日まで延長され、同日に詐欺被告事件として起訴された。
濱口弁護士は、藤田に対し、同月九日に接見し、更に同月一二日に藤井弁護士と共に接見した。
また、濱口弁護士と藤井弁護士は、同月一二日、赤松にも接見したところ、赤松が事実とは異なるが詐欺容疑を認める旨の供述をしたと述べたので、詐欺罪にならないと思っているのであれば、その旨事実を正直に述べなければならないと助言した。その結果、赤松は詐欺容疑を否認するようになった。
そして、藤井弁護士は、藤田や赤松らから弁護人に選任されたが、藤田らに東京の弁護士を選任したほうがよいと説明し、了解を得た。
藤井弁護士は、同月一六日、藤田に接見し、濱口弁護士に東京の弁護士を捜してもらっていると述べた。
(2) 原告伯母は、同月一七日、濱口弁護士から、アルファネットワークの幹部や従業員一五名以上が逮捕、勾留されており、名古屋の藤井弁護士が相談に乗っているが、名古屋からでは頻繁に接見に来ることができないので、被疑者の一人である藤田の弁護人になってほしい旨の依頼を受けた。
そこで、原告伯母は、同月一九日、本部留置場において、藤田と一回目の接見をし、藤田の弁護人に選任された。その際、留置係の警察官から、藤田の詐欺被疑事件については通知事件となっているので、担当検察官に接見が可能であるか否かを確認した上、接見してほしい旨の申出を受けた。そのため、原告伯母は、接見をする際には、担当検察官である室井検察官に電話を入れ、指定を受けてから接見することとした。なお、津野検察官は、被疑者の中に黙秘したり、否認したりする者がいて取調べが難航しており、藤田も容疑について否認していたので、同月一九日から捜査経験の豊富な室井検察官を藤田の取調べに当たらせることにしていた。
原告伯母は、同月二〇日に藤田に接見した後、藤井弁護士から、顧客の勧誘のためにアルファネットワークで使用していたトーク集をファックスで送付してもらい、電話で話をしたが、その際、藤井弁護士は、名古屋から東京へ頻繁に行くことはできず、実質的弁護活動ができないので、原告伯母の判断で自由に弁護活動をしてほしい、藤田は否認しているので話をよく聞いて対処してほしいと要請した。そこで、原告伯母は、二一日、二二日に藤田に接見した。
また、原告伯母は、二三日、東京地方裁判所に対し、勾留理由開示の申立てをし、同日午後、右勾留理由開示手続が二七日午後三時三〇分と指定された。なお、原告伯母が勾留理由開示を申し立てた旨を藤井弁護士に連絡したところ、藤井弁護士から頑張って下さいとのファックスが送付された。
(三) 本件接見申出(1) の経過
(1) 原告伯母は、これまでの接見でも本件資格商法詐欺事件の全体像を十分に把握できていなかったこと、後記のとおり、勾留理由開示手続が同月二七日に予定されたこと、あらかじめ接見等の申出をすれば、捜査との調整も容易であると考えたことから、同月二三日午後四時ころ、室井検察官に対し、藤田と同日午後四時から午後五時までの間、翌二四日午後四時から午後五時までの間、翌々日の二五日午後〇時から午後一時までの間、いずれも室井検察官の指定する時間内に接見したい旨電話で申し出た(本件接見申出(1) )。
室井検察官は、二三日の藤田に対する取調べ終了後にそれ以降の具体的な取調べ予定を確定する方針であったため、二三日の接見申出については申出の時間帯で三〇分間の接見を指定し、二四日以降の接見申出については、捜査の状況が流動的なので、二四日に回答する旨答えたところ、原告伯母はこれを了承した。
原告伯母は、二三日午後四時四〇分ころから午後五時一〇分ころまでの三〇分間、藤田と接見し、勾留理由開示手続の説明・打合せ等をした。
(2) 室井検察官は、同日午後六時四四分ころから午後一〇時二三分ころまでの間、藤田に対する取調べを行ったが、藤田は容疑を否認する供述を維持していた。
(3) ところで、この時点における本件資格商法詐欺事件に対する捜査状況は、安東が被疑事実を認めてはいるものの、被疑事実を認める営業員らの供述と、外形的事実、詐欺の犯意、共謀について否認する幹部役員らの供述が対立していた。また、津野検察官や室井検察官らは、これまでの捜査を通じて、藤井弁護士が被疑者らに対して虚偽の供述をするようそそのかしたり、依頼者相互間の利益が相反する行為をするといった特異な弁護活動をしているとの疑いを強めており、原告伯母らその余の弁護人も、藤井弁護士の右方針に従って統一的な弁護活動を行っていると考えていた。
そこで、藤田に対する右取調べを終えた室井検察官は、取調べ担当の佐々木警察官とその後の取調べ予定について協議したところ、容疑を認める者がいる反面、藤田が依然として容疑を否認しているので、一定の期間、藤田を集中的に取り調べて、いずれの供述が真実であるかを判断する必要があるが、二七日には勾留理由開示手続が予定されており、まとまった取調べ時間がとれないので、二四日から二六日の三日間、原告伯母との接見を制限し、他の共犯者と遮断した状態で、昼食及び夕食並びにその前後の休憩の時間を挟んで終日にわたって継続的・集中的に取調べを行うという予定を確定した。
(4) 室井検察官は、同月二四日午前九時四〇分ころ、原告伯母の法律事務所に電話して、同事務所事務員に対し、本日は取調べがあるので藤田との接見はできない旨伝えた。
午前一一時三〇分ころ事務所に戻った原告伯母は、室井検察官から電話連絡があったことを知り、午前一一時四五分ころ、室井検察官に電話して再度二四日及び二五日に前記のとおりの時間帯での接見を申し出た。
これに対して、室井検察官は、取調べの予定があるので、二四日と二五日の接見を認めることはできない、取調べをするので二六日までは接見を認めることはできない、二七日に接見してほしい旨述べた(本件接見指定(1) )。そこで、原告伯母は、同日の遅い時間でもかまわないので接見させてほしいと申し出たが、室井検察官は、二六日まで一切接見を認めることはできない、後はどうでも好きに対処して下さいなどと述べて右申出を制限したので、原告伯母はこれ以上室井検察官と話しても埒があかないと考え、納得できないまま電話を切った。
(5) 原告伯母は、右接見指定処分につき、二四日午後一時三五分ころ、東京地方裁判所に対して準抗告の申立てを行ったが、同日棄却され(本件決定(1) )、同日午後八時三〇分ころ、最高裁判所に対して特別抗告の申立てを行ったが、同月二八日、棄却された。その結果、原告伯母は、二四日及び二五日に藤田と接見することができなかった。
(6) なお、二四日における藤田に対する取調べは、午前一〇時二二分ころから午前一一時二七分ころまで、午後一時五二分ころから午後四時四六分ころまで、午後六時五一分ころから午後一〇時〇七分ころまで行われた。
そのうち、二四日の午後六時五一分ころから午後九時ころまでは、室井検察官が取調べを行った。藤田は、その際、自己の行為を反省するかのような供述を始めたが、依然として容疑を否認する供述を維持し、藤井弁護士との接見を希望した。
また、二五日における藤田に対する取調べは、午前一〇時二〇分ころから午前一一時二一分ころまで、午後一時三〇分ころから午後五時二二分ころまで、午後六時五八分ころから午後一〇時一八分ころまで行われた。
そのうち、二五日の午後六時五八分から午後九時ころまでは室井検察官が取調べを行ったが、依然として藤田は容疑を否認したままであった。
(四) 本件接見申出(2) の経過
(1) 原告伯母は、五月二四日と二五日に接見ができなかったため、二五日午後一時三〇分ころ、室井検察官の担当検察事務官に対し、翌二六日午後一時から午後二時までの間に、室井検察官が指定する時間内に接見をしたいと電話で申し出た(本件接見申出(2) )。
これに対し、室井検察官は、前記のとおり、取調べ担当の佐々木警察官と協議して、二四日から二六日の間については終日藤田に対する取調べをするとの予定を立てており、二五日の時点においても前記のとおりの捜査状況にさしたる変化もなかったため、同日午後一時四〇分ころ、折り返し電話をかけ、取調べの予定があるので二六日の接見を制限する意向を示した(本件接見指定(2) )。
これに対し、原告伯母は、二七日には勾留理由開示手続が予定されており、打合せをする必要もあるので、接見できるよう努力をしてほしい、接見時間はいつでもかまわないので、時間を調整して接見させてほしいと述べたが、室井検察官は、重ねて二六日の接見を認めることはできない旨述べ、代替日時として二七日午後四時と指定する意向を示したものの、原告伯母が、勾留理由開示手続が同日午後三時三〇分に予定されていると述べると、これを訂正し、二七日午前一一時から午後〇時までの間の三〇分間と指定した。原告伯母は、なおも右代替日時では藤田との勾留理由開示手続の打合せが直前までできないので、二六日に接見させてほしいと述べたが、室井検察官は、二六日の接見を認めることはできない、二七日に接見してほしいと述べて、原告伯母の申出を拒絶した。
(2) ところが、室井検察官は、二五日午後二時ころ、藤井弁護士に電話し、藤田との接見の機会を配慮するので、二六日に上京して東京地検に寄ってもらいたいと申し入れるとともに、二六日にも藤井弁護士に電話をかけて同日中の上京を促した。
(3) 原告伯母は、二五日午後二時五〇分ころ、右接見指定処分について、東京地方裁判所に対して、準抗告の申立てを行ったが、同日、右申立ては棄却された(本件決定(2) )。その結果、原告伯母は、二六日に藤田と接見することができなかった。
(4) ところで、同月二六日には終日藤田に対する取調べを行うことが予定されていたが、同日の午前九時ころになって急遽警視庁で捜査会議が行われることとなった関係で同日午前の取調べは中止され、同日における藤田に対する取調べは、午後一時五〇分ころから午後五時〇五分ころまで、午後六時五五分ころから午後八時五六分ころまで行われ、このうち午後一時五〇分ころから午後五時〇五分ころまでは室井検察官が取調べを行った。その際、室井検察官が容疑を全面的に認める旨の安東の供述を告げながら取り調べたところ、藤田は従前の供述を撤回し、事件への関与を認める旨の供述を始めた。
(5) 原告伯母は、室井検察官の指定どおり、二七日午前一一時ころから午前一一時三〇分ころまでの間、藤田と接見し、二五日から二六日までの間の取調べ内容と時間の確認、勾留理由開示手続についての説明等をした。その際、藤田は、被疑事実を認めたほうがよいのではないかと述べたので、原告伯母は、それは自分自身が決めることであり、十分に考えて勾留理由開示手続の際に発言するように助言した。
(6) 佐々木警察官は、二七日午後一時一一分ころから午後二時二八分ころまでの間、前日に引き続いて藤田に対する取調べを行ったが、藤田は、前日は事件への関与を認める内容の供述をしたにもかかわらず、右取調べにおいては以前と同様の全面的な否認の供述を繰り返した。
(7) 藤田の勾留理由開示手続は二七日午後三時三〇分から開かれたが、その際、藤田は、被疑事実については否認し、二四日から二六日の間に弁護人に会いたかったと述べた。
(五) 本件接見申出(3) の経過
(1) 原告伯母は、五月二八日午前一〇時四〇分ころ、室井検察官に対し、本日時刻は問わず、室井検察官が指定する時間に藤田と接見をしたい旨電話により申し出た(本件接見申出(3) )。
ところで、前記のとおり、勾留満期の日を翌日に控えて藤田が供述を変遷させていることから、室井検察官は、佐々木警察官との間で、昼食及び夕食並びにその前後の休息の時間を挟んで終日にわたって藤田に対する取調べを行うことを予定しており、このため本日は警察で一日中藤田を取り調べる予定が入っているので、翌二九日接見してほしい旨述べて、同日中の接見を制限する意向を示した(本件接見指定(3) )。
これに対し、原告伯母は、一日中取り調べしているわけではないであろうし、食事後でもかまわないので接見させてほしい、接見できるように調整してほしいと述べたが、室井検察官は、議論しても無意味であると述べて二八日の接見を制限し、代替日時を二九日午後四時から午後五時の間の三〇分間と指定したところ、原告伯母は「弁護人としては、本日接見したいといっているのです。頭にくるなあ。」といって、電話を切った。
(2) 原告伯母は、室井検察官の右接見指定処分について、二八日午後一時三〇分ころ、東京地方裁判所に対し準抗告の申立てを行ったところ、午後四時四五分ころ、同裁判所の山内裁判官から原告伯母に電話があり、翌日の早い時間に接見できるように室井検察官に強く申し入れるので納得してほしいとの申出があり、原告伯母はこれを了承した。すると、まもなく山内裁判官より電話があり、翌二九日午後〇時から午後一時までの間の三〇分間の接見を認める旨の了解を取り付けたとの連絡を受けた。そこで、原告伯母は、二九日、右準抗告を取り下げた。
原告伯母は、二八日には藤田と接見できなかった。
(3) なお、二八日における藤田に対する取調べは、午前一〇時一八分ころから午前一一時二六分ころまで、午後二時〇一分ころから午後四時五四分ころまで、午後七時〇二分ころから午後九時四二分ころまで行われた。また、二九日における藤田に対する取調べは、午後一時一八分ころから午後四時〇四分ころまで行われた。
(4) 原告伯母は、二九日午後〇時二〇分ころから午後〇時五〇分ころまでの三〇分間、藤田と接見した。
(六) なお、五月九日から同月二九日までの間の藤田に対する取調べは概ね午前九時四〇分以降に行われており、午前中の取調べに先立つそれ以前の時間帯に弁護人との接見等を認めることに格別支障はなかった。
次に、毎日正午ころから少なくとも一時間程度は昼食及びその前後の休息の時間に当てられることとなっているところ、これらの時間は身柄拘束中の被疑者にとっては重要であると考えられている。もっとも、右時間については一応の目途を示したものにすぎず、取調べ等の捜査の状況によって左右されるものであった。
また、夕食及びその前後の休息の時間も身柄拘束中の被疑者にとっては重要なものであると考えられているが、この時間も、取調べ等の進捗状況によって左右されるものであるし、取調べの最終時刻も、同様に、取調べ等の進捗状況によって左右され、これを事前に予測することには困難である。
2 本件接見指定(1) の適否について
(一) 前記認定によれば、室井検察官は、藤田に対する取調べの予定があることを理由として、原告伯母が五月二三日午後四時ころ申し出た二四日午後四時から午後五時までの間及び二五日午後〇時から午後一時までの間における藤田との接見等を制限した(本件接見指定(1) )ところ、右両日とも昼食及び夕食並びにその前後の休息の時間を挟んで終日藤田に対する取調べが予定されており、また、午後〇時の前後少なくとも一時間程度は昼食及びその前後の休息の時間に当てられることとなっていたから、原告伯母が申し出た二四日の接見等希望日時には取調べが予定され、二五日の接見等希望日時には昼食ないし休息の時間及びその後の取調べが予定されていたということができる。
もっとも、前記認定によれば、右両日における終日の取調べ予定は、本件接見申出(1) がされた後に、室井検察官と佐々木警察官との協議に基づいて決定されたものであり、本件接見申出(1) がされた時には未だ予定すら立てられていない状況であったから、右取調べ予定が本件接見申出(1) がされた時には確実なものであったとは到底いうことができない。
しかしながら、前記認定によれば、室井検察官が二三日午後四時ころの本件接見申出(1) に対する制限(本件接見指定(1) )を行ったのは二四日午前九時四〇分ころで、二三日の取調べ時間、夕食ないし休息の時間及び就寝時間等施設の管理上制約される一定の時間、二四日の朝食ないし休息の時間等を除けば、本件接見申出(1) の時と本件接見指定(1) を行った時とは時間的に接着しているといえること、室井検察官が、捜査の状況が流動的であることを理由として接見等を制限するかどうかについての判断を留保する趣旨の回答をしたのに対し、原告伯母も、これを了承して、捜査との調整を許容するような意向を示したと認められることからすれば、室井検察官が、原告伯母の本件接見申出(1) の時ではなく、申出と近接した時点で、右接見等希望日時における接見等を制限するかどうかの判断をしたことを違法と評することはできない。
そして、前記認定によれば、本件資格商法詐欺事件は、共犯者が多数存在する会社ぐるみの詐欺事件であり、室井検察官が本件接見指定(1) を行ったのが藤田に対する勾留満期の五日前であって、この時点までに安東が被疑事実を認めてはいるものの、被疑事実を認める営業員らの供述と、外形的事実、犯意、共謀について否認する幹部役員らの供述が対立する状況にあり、藤田や共犯者らに対する処分を決定するためには藤田に対する取調べが重要な意味を持つことは容易に想定し得るところであること、昼食及びその前後の休息の時間が身柄拘束中の被疑者にとって重要であること、右時間が取調べ等の捜査の状況によって左右されるものであることを考慮すれば、原告伯母の接見等を申出どおりに指定すると、予定した取調べが中断したり、予定した時間に取調べを開始することができなくなって右取調べに影響するものと認められ、捜査の中断による支障が顕著な場合に当たるということができる。
そうすると、室井検察官が本件接見申出(1) を制限する要件が存在するものとしてこれを制限しようとしたことはそれ自体違法であると評することはできない。
(三) もっとも、前記のとおり、捜査機関が接見指定要件に基づいて弁護人等による接見等を制限する場合には、弁護人等と協議してできる限り速やかな接見等のための日時等を指定し、被疑者が弁護人等と防御の準備をすることができるような措置を採らなければならないと解されるところ、前記認定によれば、原告伯母は、右取調べ予定が立てられる以前から接見等の希望があることを室井検察官に伝え、捜査との調整を図ろうとする意向を示していたのであり、もともと原告伯母による接見等の希望があることを前提とした取調べの予定を立てることも十分に可能であったのに、取調べのために三日間にわたり原告伯母による一切の接見等を制限しようとした上、藤田に対する取調べは概ね午前九時四〇分以降に行われているのであるから、右午前中の取調べに先立つそれ以前の時間帯に接見等を認めることに格別支障はなかったのであり、その時間帯に接見等を指定する余地もあったと認められるにもかかわらず、室井検察官は、原告伯母の右意向に全く配慮することなく、原告伯母が希望する二四日及び二五日にはいずれも藤田に対する取調べの予定があるとして、原告伯母による接見等の申出を制限し、なおも時間の調整をしようとする原告伯母の申出を拒絶したことが認められる。
そうすると、このような室井検察官の措置は、その指定の方法等において配慮を欠くものであって、著しく合理性を欠いた違法なものといわざるを得ず、これが捜査機関として遵守すべき注意義務に違反するものとして室井検察官に過失があることは明かであるというべきである。
3 本件接見指定(2) の適否について
(一) 前記認定によれば、室井検察官は、藤田に対する取調べの予定があることを理由として、原告伯母が五月二五日午後一時三〇分ころに申し出た二六日午後一時から午後二時までの間における藤田との接見等を制限したこと(本件接見指定(2) )が認められるところ、同日には昼食及び夕食並びにその前後の休息の時間を挟んで終日の取調べが確実に予定されていたこと、正午ころから少なくとも一時間程度は昼食及びその前後の休息の時間に当てられることとなっていたこと、昼食及びその前後の休息の時間が身柄拘束中の被疑者にとって重要であること、右時間が取調べ等の捜査の状況によって左右されるものであること、藤田に対する取調べが前記のとおり重要な捜査状況にあることは二五日の時点でも変わりなかったことからすれば、原告伯母の接見等を申出どおりに認めることは、捜査の中断による支障が顕著な場合に当たるとみることができる。
なお、前記認定によれば、二六日午後一時五〇分ころまでは藤田に対する取調べが実際には行われなかったが、これは、警視庁における捜査会議が同日の午前九時ころになって急遽開催されることになったからであり、これによって取調べ予定の確実性についての右判断が左右されるものではない。
そうすると、室井検察官が本件接見申出(2) を制限する要件が存在するものとしてこれを制限したことを違法と評することはできない。
(二) しかしながら、捜査機関が接見指定要件に基づいて弁護人等による接見等を制限する場合には、弁護人等と協議してできる限り速やかな接見等のための日時等を指定し、被疑者が弁護人等と防御の準備をすることができるような措置を採らなければならないと解されることは前記のとおりであるところ、前記認定によれば、室井検察官は、原告伯母に対して接見等の制限をした直後に藤井弁護士に電話をかけて、二六日に藤田との接見等の機会を配慮するので上京してほしい旨伝え、二六日にも藤井弁護士に電話をかけて同日中の上京を促しているから、同日中に予定された取調べを一時中断して弁護人による接見等を認める余地があると認識していたことが認められる上、原告伯母も、協議の過程で、接見時間をいつでもかまわないと述べて、室井検察官の意向に合わせようという姿勢を示していたにもかかわらず、室井検察官は三日間にわたり原告伯母による一切の接見等を制限しようとして、二六日中に接見等を指定する方向で原告伯母と協議しようとした形跡をうかがうことはできない。
そうすると、このような室井検察官の措置は、その指定の方法等において配慮を欠くものであって、著しく合理性を欠いた違法なものといわざるを得ず、これが捜査機関として遵守すべき注意義務に違反するものとして室井検察官に過失があることは明かであるというべきである。
4 本件接見指定(3) の適否について
(一) 前記認定によれば、室井検察官は、藤田に対する取調べの予定があることを理由として、原告伯母が五月二八日午前一〇時四〇分ころに申し出た同日中の接見等の申出を制限した(本件接見指定(3) )が、同日には昼食及び夕食並びにその前後の休息の時間を挟んで終日の取調べが確実に予定されていたということができる。
もっとも、同日における取調べは、午後九時四二分ころまで行われてはいるものの、午前一一時二七分ころから午後二時ころまでの間及び午後四時五五分ころから午後七時〇一分ころまでの間は中断されており、昼食及び夕食並びにその前後の休息の時間を考慮に入れても接見等のための時間が全くなかったとはいい難いが、昼食及び夕食並びにその前後の休息の時間は身柄拘束中の被疑者にとって重要である上、それらの時間や取調べの最終時刻はいずれも取調べの進捗状況によって左右されるものであって、これを前もって予測することには困難であること、及び、施設の管理運営上の制約にかんがみれば、右の程度の接見等のための時間的余裕があったとしてもそれは結果論にすぎず、その時間帯に接見等を認めるべきであったということはできない。
そして、藤田は、二六日には被疑事実を認める供述を始めていたにもかかわらず、二七日になって再び否認に転じたこと、藤田に対する勾留満期が目前に迫っていたことをも考慮すれば、藤田に対する取調べの必要が認められ、原告伯母の接見等を申出どおりに認めることは、捜査の中断による支障が顕著な場合に当たるということができる。
そうすると、室井検察官が本件接見申出(3) を制限する要件が存在するものとしてこれを制限したことはそれ自体違法であると評することはできない。
(二) 次に、捜査機関が接見指定要件に基づいて弁護人等による接見等を制限する場合には、弁護人等と協議してできる限り速やかな接見等のための日時等を指定し、被疑者が弁護人等と防御の準備をすることができるような措置を採らなければならないと解されることは前記のとおりであるところ、前記認定によれば、室井検察官は、接見等の日時を二九日の午後四時から午後五時の間の三〇分間と指定しているが、藤田に対する取調べは概ね午前九時四〇分以降に行われており、それ以前の時間帯に弁護人との接見等を認めることに格別支障はなかったのであり、また、室井検察官は、山内裁判官の勧告により、現実には同日の午後〇時から午後一時までの間の三〇分間の接見等を認めていることにかんがみ、同日の早い時間帯に接見等を指定する余地もあったと認められるので、その時間帯に接見を認めるのが望ましいとはいい得ても、具体的の時間指定は室井検察官と原告伯母との協議によらざるを得ないところ、原告伯母は、あくまで二八日中の接見にこだわり、翌日の早い時間帯での接見に思いを致さなかったのであるから、室井検察官の措置が、その指定の方法等において配慮を欠くものであって、著しく合理性を欠いた違法なものと評することはできない。
(三) なお、原告伯母は、室井検察官が取調べ状況等の確認義務及び指定要件の検討義務を怠ったとか、接見等のための日時等を指定するに際して原告伯母との協議・調整義務を怠ったと主張するが、室井検察官は、本件接見申出(3) の時までには二九日までの取調べ予定を確定していたから、改めて警察官に対して取調べ状況を確認する必要はなかったし、右にみたとおり、原告伯母があくまでも二八日中の接見にこだわっていたことをも考慮すれば、原告伯母の主張は理由がない。
(四) そうすると、本件接見申出(3) に対して制限を加えた室井検察官の措置が違法であったとする原告らの主張に理由はない。
四 本件接見申出(4) ないし(6) について
1 争いのない事実等、証拠(甲一〇、一一の1ないし3、一二、一三、二一、二五、乙一、二六ないし二九、証人馬場浩一、同津野正文、同石井庸訓、同藤井成俊、原告児玉晃一本人、)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(一) 本件各接見申出までの経過
(1) 赤松は、五月一〇日、詐欺容疑で逮捕され、同月一三日、警視庁上野警察署留置場に勾留され、併せて刑訴法八一条に基づく接見禁止決定を受け、同月二九日に詐欺被告事件として起訴された。
原告児玉は、濱口弁護士から紹介を受け、同月一四日に赤松と一回目の接見をして弁護人に選任され、以後、一五日、一六日、一七日、二〇日、二二日、二四日、二六日、二八日に赤松と接見したが、上野警察署長宛に接見等の指定に関する通知書は送付されておらず、いずれの場合においても接見指定を受けることはなかった。
(2) 赤松は、六月一日、別の被害者に対する詐欺容疑で再逮捕され、同月四日、勾留され、併せて刑訴法八一条に基づく接見禁止決定を受けた。
(3) 赤松の取調べ担当となった馬場検察官は、同月三日、主任検察官である津野検察官の指示によって、上野警察署長宛に接見等の指定に関する通知書を送付した。津野検察官は、その際の接見指定権の行使について、第一次的には取調べ担当検察官である馬場検察官が行使し、取調べ担当検察官が不在等で支障がある場合には、主任検察官である自らが行使することとした。
なお、赤松は、一日に再逮捕され、二日までに再逮捕事実の概略等について取調べを受けたが、三日には事件送致のため東京地方検察庁に、四日には勾留質問のため東京地方裁判所に押送されたため、右両日は司法警察員による取調べは行っていなかった。そこで、五日から、司法警察員による赤松の再逮捕事実の詳細等についての本格的な取調べが予定されていた。
(二) 本件接見申出(4) の経過
原告児玉は、六月五日午前一〇時三〇分ころ、上野警察署に勾留中の赤松の接見に向かうため、同署の留置係の警察官に赤松の在監を確認した上、午前一一時ころ、同警察署に到着し、留置係の警察官に対し、赤松との接見を申し出た(本件接見申出(4) )。
このとき、赤松は在監していて、取調べ等を受けてはいなかったが、右申出を受けた留置係の警察官は、原告児玉に対し、上野警察署長宛に接見等の指定に関する通知書が送付されていることを説明し、接見指定書の提示を求めたところ、原告児玉が持参していないと答えたので、午前一一時〇五分ころ、担当検察官である馬場検察官に確認するための電話をかけた。
原告児玉は、留置係の警察官に馬場検察官と直接話がしたいと申し入れて電話を替わってもらい、馬場検察官に対し、現に取調べを行っておらず、在監しているから、直ちに接見させるよう申し出るとともに、通知事件にされた理由を問い質した。
これに対し、馬場検察官は、通知事件になった理由について、共犯者との関係や主任検察官である津野検察官の指示である旨回答したが、原告児玉の理解を得ることはできなかった。
その後、馬場検察官は、現に取調べ中でなくても、間近に確実な取調べ予定があれば接見指定できるので、警察で取調べ予定があるか否か確認し、再度連絡する旨回答し、取調べ担当の市川警察官に取調べ予定を確認したところ、午後〇時ころから一時間程度を昼食及び休息の時間とし、その後の午後一時から取調べ予定がある旨回答を受けたので、接見指定要件があると判断した。そこで、馬場検察官は、昼食前には接見を終えてもらう必要があるが、通常は二〇分間程度あれば接見の目的を達することができるであろうと判断し、接見時間を午前一一時二五分から二〇分間に制限することとして、午前一一時二二分ころ、上野警察署宛にファックスで、直ぐに接見を始められるとする趣旨で、接見時間を午前一一時二五分から午前一一時四五分とする旨の指定書を送信した。これに対し、原告児玉から接見時間が二〇分では不十分である旨の抗議もなかった。なお、赤松の取調べは、市川警察官が取調べを行って供述調書を下書きし、今川警察官が補助的にその取調べに立ち会って、供述調書の下書きをワープロ入力等をする体制になっていた。
原告児玉は、馬場検察官との電話の後、接見室で待機していたところ、午前一一時三五分ころ、留置係の警察官から右接見指定書を提示され、同時刻ころから午前一一時五五分ころまで接見した。
なお、同日は、今川警察官が別件事件の捜索に急遽応援を命じられ、これに予想以上の時間を要したため、右接見指定が行われた後の時点で赤松に対する取調べの予定が変更され、赤松は一日中留置場内にいた。原告児玉は、同月七日の接見(本件接見申出(5) の接見)の際、赤松からこのことを知らされた。
(二) 本件接見申出(5) の経過
原告児玉は、六月七日午後七時ころ、電話で赤松が上野警察署に在監していることを確認した上、午後七時三〇分ころ、同警察署に到着し、留置係の警察官に赤松との接見を申し出、その際、赤松の在監を確認した。
留置係の警察官は、右申出に対し、直ちに担当検察官に連絡をとった。しかし、取調べ担当検察官である馬場検察官もその立会検察事務官も退庁していたため、主任検察官である津野検察官に右連絡の電話が回されたが、津野検察官も午後七時一五分ころ既に退庁していたので、津野検察官の立会検察事務官である石井事務官がその電話を受け、原告児玉を赤松に接見させるか否かについて指示を求められた。
東京地方検察庁においては、立会検察事務官が具体的に検察官から指示を受けずに接見等の日時等の指定をすることは許されておらず、石井事務官は、津野検察官から具体的な指示を受けていなかったが、津野検察官が退庁してから帰宅するまで通常三五分から四〇分程度かかり、直ちに津野検察官には連絡がつかない時間帯であったことから、津野検察官が帰宅して、津野検察官から指示を受けるまで原告児玉を待たせるのは申し訳ないと思い、午後七時三五分ころ、右警察官に対し、二〇分間接見させるように回答した。
原告児玉は、留置係の警察官から、津野検察官によって口頭で二〇分間の接見指定がされた旨告げられたので、右警察官に対し、捜査の必要性の有無を確認するため、津野検察官に連絡をとるように要請した。
原告児玉は、午後七時四〇分ころ、津野検察官は既に帰宅したとのことで、石井事務官から電話で事情の説明を受けることになったが、石井事務官に具体的にどのような捜査の必要があるのか説明を求めたところ、石井事務官は、何ら具体的な説明をすることができず、津野検察官と連絡をとって、至急連絡をすると回答したので、原告児玉は一旦電話を切り、連絡を待つこととした。
石井事務官は、午後七時五〇分ころ、帰宅した津野検察官に連絡をとり、事情を説明して指示を仰いだところ、津野検察官は、警察に取調べ状況を確認し、現在取調べをしておらず、その予定もなけれは、時間の制限なく接見させるように指示した。石井事務官は、午後七時五五分ころ、上野警察署留置係の警察官に取調べ状況を確認したところ、現在取調べをしておらず、その予定もないとのことであったので、原告児玉には時間の制限なく接見させるように指示した。
原告児玉は、午後八時ころ、右警察官から結局接見指定はしないことになった旨伝えられ、右時刻から制限なしで赤松と接見することができたが、約三〇分間接見開始が遅延した。
(三) 本件接見申出(6) の経過
原告児玉は、六月一一日午後七時〇五分ころ、上野警察署留置係の警察官に対し、赤松が留置場の房内に在監しており、取調べ等が行われていないことを電話で確認した上、上野警察署に向かった。
馬場警察官は、原告児玉の右電話の直後に留置係の警察官から、赤松は現在在監中であるが、まもなく原告児玉が赤松と接見するために来署するので、接見指定について指示を仰ぎたい旨の連絡を受けたところ、前日(一〇日)の午後五時ころに市川警察官と、一一日の昼間は馬場検察官が取調べを行い、夕食後は市川警察官が取調べを行う予定を打ち合わせていたので、夕食後は市川警察官が取調べを行うが、その前に二〇分程度接見を認めてもかまわないだろうし、通常は二〇分程度で接見の目的は達成されるだろうと考え、接見時間を二〇分間とする指定をした。もっとも、馬場検察官は、仮に原告児玉から二〇分の接見時間で不十分である旨抗議があれば、取調べ時間との調整を行う余地はあると考えていた。
原告児玉は、午後七時三五分ころ、同警察署に到着し、留置係の警察官に赤松との接見を申し出た(本件接見申出(6) )ところ、右警察官から右指定の存在を伝えられた。原告児玉は、赤松が現在留置場内におり、捜査の必要性があるとは考えられなかったので、馬場検察官に対し、接見を制限すべき捜査の必要性について説明を求めたところ、通常の取扱いに従って二〇分間と指定した旨述べた。そこで、原告児玉は、更に制限のない接見を求めたところ、馬場検察官は、取調べ時間を短縮することができるかどうかについて市川警察官に確認しようと考え、取調べ担当警察官に連絡をとるので、しばらく待機してほしい旨回答した。
馬場検察官は、取調べ担当の市川警察官に電話したところ、別の警察官から市川警察官が上野警察署には不在である旨教えられたので、取調べの予定が変更されたことを認識した。そこで、留置係の警察官に就寝時刻等を聞き、直ちに接見を開始しても留置管理上問題のないことを確認の上、約五分後に原告児玉に電話し、右接見指定を撤回した。
その結果、原告児玉は、午後七時五五分ころから赤松と接見したが、右の接見指定によって接見開始が接見申出から二〇分間遅延した。
なお、市川警察官は、同月一一日の朝、十二指腸潰瘍の急病のため入院したが、馬場検察官にはその旨の連絡はされなかった。
2 本件接見指定(4) の適否について
(一) 前記認定によれば、馬場検察官は、赤松に対する取調べの予定があることを理由として、原告児玉が六月五日午前一一時ころに申し出た赤松との接見等を午前一一時二五分から二〇分間に制限したことが認められるところ、同日は、午後〇時ころから一時間程度が昼食及び休息の時間として当てられ、午後一時から警察官による取調べが行われる確実な予定があったと認めることができる上、昼食及びその前後の休息の時間が身柄拘束中の被疑者にとって重要であることや、赤松が再逮捕され、勾留された翌日であって、同日から本格的な取調べが予定されていたことをも考慮すれば、原告児玉の接見等を無制限に認めることは、捜査の中断による支障が顕著な場合に当たるとみることができる。
この点について、原告らは、現実には赤松に対する右取調べは行われていないから、取調べ予定自体存在しなかったか確実なものではなかったし、捜査の中断による支障が顕著な場合に当たるということもできない旨主張するが、前記認定によれば、右取調べが実施されなかったのは、取調べ担当警察官が別件事件の捜索に出向いていて帰署が予定よりも遅れたことによるものであるところ、他に特段の事情の認められない本件では右取調べの不実施が直ちに右のとおりの判断を左右するものとは解されない。
そうすると、馬場検察官が本件接見申出(4) を制限する要件が存在するものとしてこれを制限しようとしたことを違法と評することはできない。
なお、前記認定によれば、馬場検察官は、通常は二〇分間あれば接見等の目的を達することができるものと判断して、原告児玉の接見等を同日の午前一一時二五分から四五分までの二〇分間と指定したのであるが、右時間の指定に関して原告児玉から何らの申入れを受けることもなかったというのであるから、馬場検察官のこの点に関する措置を違法と評することもできない。
(二) また、原告児玉は、馬場検察官が接見指定要件を確認・検討したとはいえないと主張するが、前記認定に徴すれば、この主張に理由がないことは明かである。
(三) さらに、原告児玉は、接見開始が三五分間遅延したのは違法であると主張するので、検討する。
思うに、捜査機関は、弁護人等から被疑者との接見等の申出を受けた時には、接見指定要件が存在するか否かを判断して、弁護人等ができるだけ速やかに接見等を開始することができるよう配慮すべきであるが、弁護人等から接見等の申出を受けた者が接見等の日時等の指定につき権限のある捜査機関でないため右の判断ができないときは、権限のある捜査機関に対して右の申出があったことを連絡し、その具体的措置について指示を受けるなどの手続を採る必要があり、こうした手続を採る間、弁護人等が待機させられ、又は、その間接見等ができなかったとしても、それが合理的な範囲内にとどまる限り、そのことは許容されていると解するのが相当である。
そして、前記認定によれば、原告児玉が上野警察署に赴いて接見等の申出をしてから、馬場検察官が、捜査状況等を確認し、指定の要否・内容を検討した上、接見指定書をファックスで送信して指定内容を原告児玉に告知するまでの間に二〇分程度の時間を要したが、その中には通知事件についてのやりとりの時間も含まれており、それが通常要する時間として合理的な範囲内にとどまり、許容されるのは明らかである。
なお、前記認定によれば、原告児玉が接見を開始したのは右ファックスが送信されてから更に十数分が経過した後のことであって、この点で上野警察署での内部手続に不手際があったとみることができるが、このことによって馬場検察官のした措置が違法と評されるわけではない。
(四) そうすると、本件接見申出(4) に対して制限を加えた馬場検察官の措置が違法であったとする原告児玉の主張は理由がない。
3 本件接見指定(5) の適否について
(一) 津野検察官による接見指定について
原告児玉は、まず、本件接見申出(5) に対して、津野検察官が接見等の制限をしたと主張するが、前記認定によれば、右接見申出に対しては、留置係の警察官から連絡を受けた石井事務官が対応しており、石井事務官が自らの判断に基いて接見時間を二〇分間とするよう右警察官を介して原告児玉に告知したものであって、津野検察官がこれに関与した形跡は何らうかがえないから、原告児玉の右主張を採用することはできない。
(二) 石井事務官による接見指定について
ところで、被告は、石井事務官には接見指定権限はなく、同事務官による接見指定処分がない旨主張する。
なるほど、検察事務官は検察官の行う捜査について、個々の指揮を待つまでもなく一般的に検察官を補佐するとともに、検察官の指揮によって自ら捜査を行うのである(検察庁法二七条三項、刑訴法一九一条二項)が、東京地方検察庁においては立会検察事務官は検察官から具体的指示を受けなければ接見等の日時等の指定をすることが許されていなかったところ、右具体的指示がうかがわれない本件においては、石井事務官には接見指定権限がないといわざるを得ない。したがって、石井事務官がした本件接見指定(5) は無権限者のした行為として無効である。しかしながら、無効な接見指定処分であっても処分の外観を有し、法律関係の事実上の変動を生じさせていることは明らかであるので、処分がないとする被告の主張を採用することはできない。
ところで、前記認定によれば、接見等を制限する旨告知された原告児玉が直ちに異議を申し述べ、これに対する折衝の過程で、約二五分後に指揮監督権を有する津野検察官が処分の外観を有する接見指定を取り消したものと解される。その結果、原告児玉の接見申出が制限されることはなかったのである。
そうすると、一旦された無効な接見指定も約二五分後に取り消され、かつ原告児玉の接見が制限されるという観点での損害はなかったから、石井事務官の本件接見指定(5) を国賠法上違法と評することはできない。
そこで、原告児玉の接見開始が約三〇分遅延したことが問題となるが、本件接見申出(5) が検察官の通常の執務時間外にされており、原告児玉としても、接見申出に対する判断にある程度の時間を要することは予想に難くないから、そのことをも考慮して、本件接見申出(5) がされてから接見が認められるまでの一連の経過を全体的にみれば、捜査機関が捜査状況等を確認し、接見指定の要否及び制限するとした場合の指定の内容を検討し、指定内容を弁護人に告知する過程と同視することができるというべきであって、右三〇分という時間は通常要する時間と同視できるので、合理的な範囲内にとどまるということができる。
そうすると、約三〇分の接見開始の遅延をもって国賠法上違法と評することはできないというべきである。
そうすると、本件接見指定(5) に対する原告児玉の主張は理由がない。
4 本件接見指定(6) の適否について
前記認定によれば、馬場検察官は、間近に赤松に対する取調べの予定があることを理由として、原告児玉が六月一一日午後七時三五分ころに申し出た本件接見申出(6) を一旦制限し、本件接見指定(6) をしたが、原告児玉から異議を申し立てられ、これに対応する過程で右取調べ予定の消失事情を知悉したため、右処分を取り消し、結局、原告児玉の接見が制限されることはなかったものの、接見等を開始するまでに約二〇分間を要したことが認められる。
そうすると、馬場検察官が当初原告児玉による接見指定処分をした際には既に客観的には取調べの予定が消失していたのであって、接見指定要件を欠いていたことは明らかであるが、前記認定によれば、馬場検察官は、一〇日午後五時ころに取調べ担当の市川警察官と打合せをし、翌一一日の夕食後には同警察官が赤松に対する取調べを行うことを決定し、確認していたこと、同警察官は一一日の朝緊急入院したため、予定の変更を知らされていなかったことに照らせば、改めて同警察官らに確認しないまま接見指定要件等の有無を判断したことにはやむを得ない事情があったと解されるし、赤松が留置場内にいるため疑問に思った原告児玉から異議を申し立てられるや取調べ時間を短縮できるかどうか警察官に確認しようとし、その過程で右取調べ予定が消失したことを知らされて、直ちに本件接見指定(6) を撤回したのであるから、本件接見指定(6) を国賠法上違法と評することはできない。
また、接見開始が約二〇分遅延したことも、その間の右約二〇分の時間は、検察官が捜査状況等を確認し、接見指定の要否及び内容を検討し、指定内容を弁護人に告知するのに通常要する時間として合理的な範囲内にとどまっているとみることができるから、それを国賠法上違法と評することはできないというべきである。
そうすると、本件接見指定(6) に対する原告児玉の主張は理由がない。
五 準抗告決定の違法性について
原告伯母は、本件決定(1) 及び(2) が違法であると主張するので検討する。
裁判官がそ権限の行使としてした接見指定処分に対する準抗告決定が国賠法上違法となるのは、右決定につき刑訴法上の救済方法によって是正されるべき暇疵が存在するというだけでは足りず、当該裁判官が違法又は不当な目的をもって裁判をしたなど裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情があることを必要とすると解するのが相当である。けだし、右決定は一定の手続の下で行われる訴訟活動に基づき一定の判断を下す作用であるが、右の判断は、裁判官によって意見の分かれ得るような事実認定、法律の解釈・適用上の問題についての結論の選択という要素を含むものであって、その正当性は純粋思惟的・相対的なものであるところ、仮に、ある裁判官が正当であるとした判断が後に他の裁判官によって不当であると判断されたとしても、それは判断内容の当否の問題であって、そのために先の判断が当然に違法となるわけではないからである。これを本件についてみるに、河邊裁判官及び三上裁判官が違法又は不当な目的をもって本件決定(1) 及び(2) をしたなどその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情を認めるに足りる主張及び証拠はないから、本件決定(1) 及び(2) は国賠法上違法ということができないのである。
六 損害
1 懲罰的損害賠償の可否
原告伯母は、接見妨害を根絶するためには、被告に懲罰的に賠償金を課す必要があると主張するので検討する。
不法行為に基づく損害賠償制度は、被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し、加害者にこれを賠償させることにより、被害者が被った不利益を補てんして、不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするものであり、加害者に対する制裁や、将来における同様の行為の抑止、すなわち一般予防を目的とするものではない。もっとも、加害者に対して損害賠償義務を課することによって、結果的に加害者に対する制裁ないし一般予防の効果を生ずることがあるとしても、それは被害者が被った不利益を回復するために加害者に対し損害賠償義務を負わせたことの反射的、副次的な効果にすぎず、加害者に対する制裁及び一般予防を本来的な目的とする懲罰的損害賠償の制度とは本質的に異なるというべきである。我が国においては、加害者に対して制裁を科し、将来の同様の行為を抑止することは、刑事上又は行政上の制裁にゆだねられているのである。そうしてみると、不法行為の当事者間において、被害者が加害者から、実際に生じた損害の賠償に加えて、制裁及び一般予防を目的とする賠償金の支払を受け得るとすることは、右にみた我が国における不法行為に基づく損害賠償制度の基本原則ないし基本理念と相いれないものであると認められる。よって、原告伯母の右主張は、採用することができない。
2 原告伯母の損害
原告伯母は、本件接見指定(1) 及び(2) により、五月二四日から二六日までの間の弁護活動が著しく困難となった上、不必要な準抗告等の申立てや検察官との交渉に無用な時間と労力を費やすことを余儀なくされ、著しい精神的苦痛を受け、本訴提起をしたことが認められるから、慰謝料及び弁護士費用としては、一〇万円が相当である。
したがって、被告は原告伯母に対し、慰謝料等一〇万円及びこれに対する不法行為後の平成八年五月二八日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務を負うのである。
七 そうすると、原告伯母の請求は、右の範囲で理由があるからその限度で認容し、同原告のその余の請求及び原告児玉の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、なお、仮執行宣言の申立てについては、その必要がないものと認めこれを却下することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 都築弘 裁判官 土田昭彦 裁判官 伊藤清隆は、差支えにつき、署名押印することができない。裁判長裁判官 都築弘)
別紙<省略>